2009年12月31日木曜日

ACS 239th(第239回アメリカ化学会)で常温核融合のセッション(続)

LENR-CANRのNewsに、以前紹介した来年3月に開催されるACS会議での常温核融合のセッションの概要が載っています。

■追記(2010年1月17日)
http://www.lenr-canr.org/News.htm に、「The sessions will be held on March 21 and 22, starting at 8:00 a.m. This is a schedule change. The final ACS program will be availble in February 2010.」とスケジュール変更のお知らせが載っています。22日~23日と言っていたのが、1日早く変更されて21日~22日になったようです。このブログを見て参加する人はいないでしょうが(笑)、ご注意ください。
■追記終了


■引用開始
American Chemical Society March 2010 meeting cold fusion program
December  2009
The American Chemical Society (ACS) Spring 2010 National Meeting & Exposition will be held in San Francisco, California, March 21 - 25, 2010. The cold fusion session at this year's conference includes 61 abstracts. Forty six papers will be presented in four sessions over two days, sessions: ENVR014, ENVR049, ENVR050 and ENVR051. Fifteen papers will be shown in poster sessions. Here is a letter from the session organizer, Jan Marwan, and a copy of the program:
http://lenr-canr.org/Collections/ACSMarch2010program.pdf
■引用終了

■勝手な和訳
ACSの2010年春の全国会議&展示会はサンフランシスコで2010年3月21日~25日に開催される。常温核融合のセッションには61編のアブストラクト(概要)が寄せられている。46編は2日間にわたる4つのセッションで発表される:ENVR014、ENVR049、ENVR050、ENVR051。15編はポスターセッションで発表される。以下はセッション事務局のJan Marwan氏から送られてきたレターとプログラムのコピーである。
http://lenr-canr.org/Collections/ACSMarch2010program.pdf
■勝手な和訳終了

ポスター含めて61編の発表があるという事でなかなかの盛況ではないでしょうか。米国化学会は常温核融合研究をすっかり再認知したと思ってよさそうですね。
上記のプログラムを見ると、日本人科学者の発表も予定されているようです。私が気がついたものを拾い出してみました。抜けや間違いがあったらご指摘ください。

3月22日AM Theory and Overview
ENVR014
高橋亮人博士
沢田哲雄博士

3月22日PM Excess Heat/Power and Calorimetry
ENVR049
水野忠彦博士
北村晃博士

3月23日AM Nuclear Transmutation and Neutron, Helium and Tritium Emission
ENVR050
岩村康弘博士

3月23日PM New Perspectives
ENVR051
なし

以上

2009年12月27日日曜日

荒田博士の公開実験で配付された論文について

2008年5月22日(木)に大阪大学名誉教授である荒田吉明博士が実施された固体核融合の公開実験のニュースはインターネット上で良く紹介されています。夢エナジー氏の以下のサイトにはこの公開実験関連の豊富な情報がまとめられています。

http://www10.ocn.ne.jp/~solid_fu/

常温核融合を巡る議論の際に、この公開実験時に配布された荒田博士の論文が引用されることがあります。しかし、この論文を読むと、素人ながら、論文としての信頼性に疑問を持ってしまいます。素人なので論文の中身は評価できませんが、素人にも分かる外形的な記述の問題から、論文としての質が低いと見えるのです。
荒田博士が常温核融合研究に大きな貢献をされている事は存じていますし、荒田博士が考案されたパラジウム合金パウダーによるガスローディング方式が非常に再現性の高い優れた実験方式だという事も存じています。それだけに、この論文を常温核融合を実証した代表作のように紹介するのは控えた方が良いのではないかと思っています。

この論文は前述の夢エナジー氏のサイトに掲載されています。

http://www10.ocn.ne.jp/~solid_fu/solid_nuclear_fusion_reactor.pdf
「固体核融合」実用炉の達成
The Establishment of Solid Nuclear Fusion Reactor
荒田 吉明・張 月嫦
Yoshiaki ARATA and Yuechang ZHANG
(Received February 20, 2008)
高温学会誌 第34巻 第2号(2008年3月)

以下、素人ながらも論文の質に疑問を持つ点を挙げさせていただきます。論文から抜き書き(引用)して、問題と感じる部分を赤色にしました。いずれも論文の「中身」には関係ない事柄ですが、私の拙い経験からも、外部公開される論文としては目立つ瑕疵であり、十分な推敲がされていないという疑いを持ってしまいます。

1.自慢話のように受け取られる表現が繰り返されている。

P85
筆者らは20年間以上にわたり、固体核融合の実用化を目指して、その特性の解明と実用炉開拓のみの研究に集中し、世界的にも独走状態で展開した
P86
従来筆者らは、この 20 年を通じ[1)-53)]「固体核融合の実証」について、常に世界で独走的な立場で先行、その成果を示したことはよく知られている。筆者等はこれらの装置を「実証炉」と命名した。つまり一種類だけでなく、数種類の実証炉を次々に開発し、その都度「固体核融合の実証」を確認し、発表してきた。そのレポートは現在までに70編を越えている[1)-53)]。
P90
更に上記結論もうひとつの決定的実験結果を紹介する。それは重水素と水素の核燃料の立場からの比較である。従来筆者らは、この20年を通じ「固体核融合の実証」について、世界の追随を許さず、独走的な立場でその成果を示してきたことはよく知られている[1)-53)]。筆者等はこれらの装置を「実証炉」と命名した。つまり一種類だけでなく、数種類の実証炉を次々に開発し、その都度「固体核融合の実証」を確認し、発表してきた。そのレポートは現在までに 70 編を越えている。

2.情緒的な表現が用いられている。

P85
従来の学問体系では考えられないほどの重要な新しい“自然現象”である。
P86 
これは考えられないほど、つまり予測出来ないほど決定的であり、想像を絶する新現象である。この新現象は、Fig. 3 のように異なった活性バルク試料(Zr3NiO のようなバルク合金)でも Pd 単独の「ナノ粒子」の 2 倍程度多く吸収して、全く同じ共通現象が発生しており、これは「歴史的現象」として結論される。

3.同じ表現が繰り返して出現する。

P88
そこで今回も新しく開発した前記「実用炉」を使用して重水素と水素の核燃料としての立場で比較したわけです。
P90
そこで今回も新しく開発した前記「実用炉」を使用して重水素と水素の核燃料としての立場で比較したわけです。


4.53編の引用文献のほとんどが御自分の論文である。
P92~P93で引用されている53編のうち51編の著者に荒田博士の名前があります。


5.本論以外への言及があり、読者が混乱する。

結論部分で突然イーター(ITER)との比較が論じられています。しかし、本論文の趣旨は実験結果の報告と解析であり、政治的な投資判断を論じることではない筈です。また、基礎研究段階である常温核融合と、実用化に向けての実証段階にある熱核融合炉開発を同列に論じるのにも無理があると思います。私も「国際熱核融合実験炉(ITER)」への多額な投資は無理筋ではないかと懸念している一人ですが、たとえそのような意見を持っていたとしても、この論文の中で論じるのは不適当だと思います。

P92
従って結論として、この固体核融合の「実用炉」は一方では熱エネルギー発生装置であり、他方では 4-2-He 製造装置でもある。イーターのような熱核融合装置がよいか、上記のような固体核融合がよいか、どちらが人類のために重要であるか論を待つ必要はないと考えている。私は 50 年前、公開実験で、現在でさえ世界最高の電流と温度を発生させた記録的装置を製作 ・ 実験し、日本の熱核融合をスタートさせた立場上、それぞれの機能はよく理解しているので、特にその感を深くしている者である。国家として或いは人間社会としても、早く決断すべきと考えている。単に日本のためだけではなく、人類のためにも大切な事である
上記固体核融合は家庭、自動車、船、航空機、大型エネルギー源として活用可能と考えている。現在の空気汚染状況を考えるとき、速やかな対応が望まれる。また、更に新しい学問・産業の展開も可能と考えられる。
最後に、従来の“熱核融合反応”は危険物質を多量に放出し、その対策が極めて重要であることは一般によく知られている事実であるが、今回の“固体核融合反応”は全く無害であり理想的な実用炉であることを知っておくことは“人類のエネルギー源”として極めて重要なことである。

以上

2009年12月26日土曜日

ACS 239th(第239回アメリカ化学会)で常温核融合のセッション開催

来年3月にサンフランシスコで開催される第239回アメリカ化学会(ACS 239th National Meeting)でも常温核融合(LENR: low-energy nuclear reaction)が取り上げられるようです。

2009/12/23 < 2010年、再びアメリカ化学会ACSで! >
http://www5b.biglobe.ne.jp/~sugi_m/page285.htm

■引用開始
2009年3月にアメリカ化学会(ACS)のシンポジウムで常温核融合が発表されるという快挙がありましたが、2010年3月のACSで再びCold Fusionがとり上げられる予定です。次のNew Energy TimesのHPに出ています。
http://newenergytimes.com/v2/conferences/2010/ACS/ACS-2010.shtml
■引用終了


凝集体核科学国際学会」(ISCMNS)のホームページにも開催のお知らせが載っていました。これを見るとAbstract(概要)の投稿締切は2009年10月19日だったようです。

■引用開始
March 1-26 2010: The Fourth International New Energy Technology Symposium will be held at the American Chemical Society in San Francisco, California, USA.  For the fourth year in a row, the American Chemical Society, the largest scientific association in the world, has provided the opportunity for researchers studying low-energy nuclear reaction research to contribute to and participate in mainstream science.
Abstract submission is now open. Deadline is 19 October 2009. Please feel free to submit your abstract, 150 words or less (Environmental Division ENVR ? Symposium on New Energy Technology).
■引用終了

以上

2009年12月21日月曜日

Physics Letters掲載の北村博士論文

著名論文誌Physics Lettersに掲載された北村博士の論文がLENR-CANRからダウンロードできるようになったようです。


Kitamura, A., et al., Anomalous effects in charging of Pd powders with high density hydrogen isotopes. Phys. Lett. A, 2009. 273(35): p. 3109-3112.

http://lenr-canr.org/acrobat/KitamuraAanomalouse.pdf

以上

ICCF-15のABSTRACTS

ICCF-15(第15回凝集系核科学国際会議)のホームページに、ABSTRACTSが掲載されています。
http://iccf15.frascati.enea.it/docs/Abstracts.pdf

135ページでポスターセッションの内容も含まれているようです。

以上

2009年12月13日日曜日

菊池誠教授が常温核融合をニセ科学とする理由について

何をもって科学とニセ科学を分けるのかは興味深いテーマです。最近では地球温暖化の科学分析の根拠を揺るがすスキャンダル「クライメートゲート」(Climategate)が話題になってますね。これだけ大きな影響を与えた科学分析であっても、ニセ科学の疑いが出てきたみたいで、今後の展開に要注目です。

さて、以前、「常温核融合って論文は書かれてるの?」というエントリで、大阪大学の菊池誠教授のブログの記事から、主にJed Rothwell氏のコメントを引用させていただきました。この記事は「ニセ科学」というカテゴリで書かれている事や、以下の文章から、菊池誠教授が常温核融合はニセ科学だと判断されているように読み取れます。

■引用開始

[追記 5/28]
文章のスタイルから明らかかと思ってはっきり書かなかったのですが、僕はこの「成功」を九分九厘間違いだと考えています。これまでの検証実験との本質的違いはありそうにないです。
もちろん、なんらかのシステムで固体内常温核融合が起きてはならないという理由はないのですけど、パラジウム・水素(重水素)系でいまさらとなると、これまでとはよほど画期的に違うことをしないと無理でしょう。

万が一本当だったら、「ごめんなさい」と言うしかないです。はい。まあ、その必要は生じないでしょう。

それから、今回の「成功」は質量分析の結果に基づいているので、核反応の専門家よりも、まずは質量分析の専門家に、本当にこの実験でいいかどうか伺うのがよさそうです。うちだと、豊田さんとか・・・。ポイントは重水素とヘリウムの識別ですかねえ。よくわかんないけど

まあ、きちんとした論文が出ればすべてがはっきりします。最大の難関は論文を出版するところにあり、そこで査読者からかなり厳しい注文がつくはずです。査読者を説得できるだけのデータをそろえられるのなら、それだけでも立派。
■引用終了


この記事には1000件以上のコメントがついており、とても全部に目を通せてはいないのですが、私には、なぜ菊池誠教授が常温核融合をニセ科学認定されるのかが良く分かりません。

菊池誠教授は「きちんとした論文が出ればすべてがはっきりします。」と書かれているので、科学としての正しいプロセス(手順)を問題にされているのかと思いましたが、これについてはJed Rothwell氏から手厳しい反証が出ました(Jed氏は「常温核融合の論文は19前から数千本出版されています。荒田の結果も10年前から報告され、アメリカ、イタリアなどで追試して確認されています。その文献を読まないで「たぶん間違っている」と速断したから、「ごめんなさい」と言うべきです。」とコメントしています)。しかし、Jed氏の指摘を受けても、ニセ科学認定は変わらなかったようです。

それでは、菊地誠教授が常温核融合の論文の中身が間違っているとみなしているかと言うと、そもそも論文をご存知なかったくらいなので、それもありえません。

私の読解力が足りないのかもしれませんが、要するに菊池誠教授は「世の中で科学と認められていないから、ニセ科学に違いない」と主張されているように思えるのです。(このように発言されている訳ではありません。私がそのように理解したという話です)
しかし、こういうスタンスだと議論になっても認識が深まらないので、ニセ科学を糾弾する人としては不思議なスタンスだなぁと疑問に思っていました。

そうした所、たまたま9.11テロの米国公式説を疑う議論のスレに面白い書き込みがあったので以下に引用させていただきます。「陰謀論」を「常温核融合」に置き換えて読んでみると、菊池誠教授のスタンスが良く理解できました。議論が深まらないのも頷けます。

ちなみに、「911陰謀論」というと怪しげな感じがしますが、しっかりした論拠を示して米国政府に再調査を要求する地道な活動から、十分な根拠を持たず妄想や物語の域を出ない言説まで様々な主張があり、十把一絡げにして語るべきではありません。前者の活動で有名なのは、米国の建築士リチャード・ゲイジ氏です。今月は日本での連続講演ツアーが行われていて、今日が最終日です。私もゲイジ氏の主張には賛成で、WTCビルは爆破による制御解体を疑う十分な証拠があると考えています。実は、その論拠の一つである、WTCの粉塵からナノ・サーマイトと呼ばれる非常に特殊な爆発物を検出したという論文を出した著者の一人に1989年に常温核融合を主張したスティーブン・ジョーンズ博士が名を連ねているのです。面白いですね。


9.11はアメリカ政府の内部犯行@国際18
http://society6.2ch.net/test/read.cgi/kokusai/1253507461/


■引用開始
615 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2009/10/22(木) 18:26:44 ID:cirYYo9D
★大阪大学教授 菊池誠氏のブログ
http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/~kikuchi/weblog/index.php?UID=1255708069

The Ground Truth (John Farmer) と「倒壊する巨塔」(ローレンス・ライト)
2009/10/17

すでに他のエントリーでも取り上げていますが、『倒壊する巨塔』は、ビン・ラディンがアルカイダを組織して
テロを実行するにいたるまでの過程と9.11の進行,特にアメリカ政府の情報機関がどのように行動したかを
綿密な取材に基づいて書いた大作にして労作です。

「公式報告」ではないジャーナリストの視点から書かれたものなので、公式報告嫌いのかたにもお勧めします。
というか、そういうかたこそぜひ一読を。
なんというか、ジャーナリストを名乗って陰謀論の本を書いている何人かの日本の人たちとは、
「取材」というもののレベルが違うように思いますが、いかがでしょう。

その『倒壊する巨塔』はJohn Farmerの"The Ground Truth"でもOutstandingと評価されています。


616 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2009/10/22(木) 18:44:21 ID:e0d8jsBX
>>615
この人、ペンタゴン関係で「陰謀論はすでに論破したのに」を連呼してるけど、どこで論破してるんだろう
誰かリンク貼ってくれないかな
レッテル張りや人格攻撃ばかりで実のある意見が無いように見えるんだけど

617 名前:smac[] 投稿日:2009/10/23(金) 06:43:53 ID:BGQ8aECG
>>616

>レッテル貼りや人格攻撃ばかりで
>実のある意見が無いように見えるんだけど

それは誠ちゃんの運営方針がそうなんだからしかたない。
彼曰く「陰謀論者との議論は時間の無駄であるばかりか、利敵行為である」とのこと。
疑問や意見などには取り合わず、揶揄、罵倒を投げつけ続けることこそが「正しい陰謀論者の扱い方」である…と主宰者本人が、ブログで読者に呼びかけている。

「論破したのに、しつこく同じ疑問を繰り返してくる」という言い方も、そうした揶揄の一環であり、単なる定型句にすぎない。
したがって、当然のことだが、論破の「実績」はどこにも無い。

以前、オレは何度か、誠ちゃんに議論の呼びかけをしたが、
「そんなこと、専門家じゃない私に分るわけありませんよ」
「あなたはビデオを見ただけで全て理解できるんですか? へぇ~すごい能力ですね」
などと皮肉っぽく揶揄するだけで、まったく議論に乗ってこなかった。そこでオレは、
「『分らない』と言うことは、未解明の疑問があると言うことだろ? なのに議論しないと言うのは矛盾じゃないのか?」と反論し、
「あなたには科学者としての矜持はないのか?」とまで挑発してみたが、誠ちゃんは、
「そんな挑発には乗りませんよ。無駄です」と受け流すだけで、徹底的に「議論拒否」を貫いた。

それでオレは理解したね。
キクログに集う人々は「陰謀論など議論に値しない」と声高に叫ぶことにより、陰謀論に対峙して、論破することのできない自分達を互いに慰めあっているのだ…と言うことを。

あれは、もとより「議論」の場ではなく、印象操作で陰謀論をぶっつぶせ!…という「運動」の場である。
このスレの前の方で誰かが、オレに出向いて議論してくれと言っていたが、
オレは熱心なキリスト教信者が集う教会に出向いて「イエスは処刑後『復活』などしなかった」とか「マリアが処女であったはずはない」などと野暮な指摘をするつもりはないよ。


620 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[???] 投稿日:2009/10/23(金) 14:32:24 ID:Unn/WoAT
>>619
>疑問や意見などには取り合わず、揶揄、罵倒を投げつけ続けることこそが「正しい陰謀論者の扱い方」である
↑このヤリクチは案外ばかに出来ないかもしれんぞ・・・。
横レススマソ──。


629 名前:smac[] 投稿日:2009/10/24(土) 06:26:15 ID:9CbrD/By
>>620

>このヤリクチは案外ばかに出来ないかもしれんぞ・・・。

そのとおり。
誠ちゃんもバカではない。
議論拒否、揶揄、罵倒が卑劣な手段だと一般に受け止められる事は百も承知で、こうした方針を打ち出している。
そこで、誠ちゃんが、それらをどんなロジックにより「正当化」しているのか?…という観点からキクログを精読すれば、なかなか面白い収穫があるのでお奨めするよ。

では以下に、そのロジックを要約して紹介しよう。
ウッカリ読むと、意外に「正論だ」と感じてしまう罠もあるので、注意が必要だが…。

誠ちゃんは「陰謀論者」を二系列に分類する。
第一分類は、事件当初からこの問題に興味を持って精力的に情報を集め、分析、検証を繰り返して「陰謀論」のロジックを組み立てて来た「理論派陰謀論者」。
誠ちゃんは、彼らを「コアな陰謀論者」と呼ぶ。
対して第二分類は、心情的な反米、反権力主義から、「米政府ならやりかねん」と考える人が、中身を精査することなく「陰謀論」を信じ込む、いわば「なんとなく陰謀論者」である。

誠ちゃん曰く、「コアな陰謀論者」は説得不可能であり、さらに強力な理論武装をしているため、論破も不可能であると考える。
もとより、誠ちゃんの頭の中では「陰謀論など論外」であるのだが、
下手に論破しようとして、陰謀論を真面目に議論すれば、かえってそれに信憑性を与えてしまい「なんとなく陰謀論者」の数を増幅させてしまう結果となる。
そこで、以下のロジックが誕生した。(頁をあらためる)


630 名前:smac[] 投稿日:2009/10/24(土) 06:27:40 ID:9CbrD/By
(頁をあらためて)
==「陰謀論」は、その可能性について語り合うだけでも「死者への冒涜」であり「良識や科学への挑戦」と言える「害悪」である。==
==これらは本来、論理的に排除すべきものであるが、残念ながら我々には「コアな陰謀論者」を打ち負かす理論武装が整っていない==
==しかし、かと言って「陰謀論」の闊歩を座して見逃す訳にはいかない。世の中「正しい」者が常に議論で「勝利」するとは限らないのだ==
==ならば我々に出来ることは、陰謀論に染まっていない人々や、陰謀論者であっても「なんとなく陰謀論者」に留まる人々を「コアな陰謀論者」から遠ざけるように努力することだ==
==「あんなものに興味を持って近づいちゃ駄目ですよ」と諭し、それでも興味本位で近づこうとするコマッタちゃんは、ポルノや麻薬に惹かれる子供同様、お尻を叩いてでもやめさせなければならない==
==現存する喫緊の害悪に対して、「議論」「説得」は無力であり、時には強制的な規制こそが有効となる==
==従って、陰謀論に対しては徹底した無視、蔑視、揶揄、罵倒、侮蔑を繰り返すことにより、「善良」な人々が「悪」に染まらないよう、警告を発し続けるのが、最良の対策だと言える==
(以上、==・・・==はキクログよりの「引用」じゃなく、オレの目一杯好意的な解釈に基づく「要約」である)

ちょっと独善的に過ぎる嫌いもあるが、なかなか堂々としたロジック展開だろう?(笑)
キクログ内の本文はもう少し歯切れが悪いのだが、オレが敵に塩を送り、より「論理的」に見えるロジックに組み立て直してみた。
誠ちゃんも、オレのこの「要約」なら異論はないと思う。

このスレの読者諸氏には、上記ロジックのホールを見つけ出し、このロジックに基づく「反陰謀論戦略」に対する対策を自分なりに、ゲーム感覚で考えてみて欲しい。
きっと色々な楽しい収穫があるだろうと思う。

【言うまでもないが、オレは誠ちゃんの支持者ではないヨ。ここんとこ「アル派」に元気ないんで、ちょっと塩を送ってみただけだからネ…誤解のないように・・・って、そんな奴ぁ居ないよな(笑)】(おわる)
■引用終了

以上

2009年12月6日日曜日

JCF10が来年3月5日~6日に八王子で開催

常温核融合は本当だった! その13」に掲載された記事で気がつきました。

CF(固体内核反応)研究会(JCF:Japan CF-research Society)の第10回年会が来年3月に開催されるそうです。

開催案内は以下のページに載っています。
http://dragon.elc.iwate-u.ac.jp/jcf/NEW.HTML

詳細は上記ページから辿れるPDF文書にまとめられています。
http://dragon.elc.iwate-u.ac.jp/jcf/jcf10.pdf

開催案内部分を以下に引用させていただきます。メールアドレスは偽物に置換しました(スパムメールが届いたりしないように)。八王子だと行けない事はないのですが、発表聞いても中身が分からないだろうなぁ・・と迷うところです。2月下旬にはプログラムが発表されるようなので楽しみに待ちましょう。

■引用開始
1. 日時 
平成22年3月5日(金)~6日(土)の2日間
2. 会場
八王子東急スクェアビル11階と13階(JR八王子駅前で徒歩5分程度)
(懇親会場は当日通知します。)
アクセス: http://www.hachiojibunka.or.jp/gakuen/gakuenn-top.htm
3. 後援: 財団法人 熱・電気エネルギー技術財団
4. 講演形式
口頭発表(20-30分程度)会場にはPCプロジェクターが備え付けられています。
5. 参加費
5千円(懇親会は別に有料)。なお、JCF年会費納入がお済みでなければ、この機会に是非とも納入をお願い致します。
6. アブストラクト
研究会前の2月下旬にアブストラクト集をホームページで公開します。平成22年2月15日(月)までに原稿ファイルを電子メールに添付して以下に送付して下さい。
********@iwate-u.ac.jp
大きさはA4サイズで1枚、マージンは左右2cm、上下2.5cm以上でお願いします。例はホームページをご覧ください。
7. プロシーディングズ
研究会終了後にプロシーディングズを刊行します。
それは http://dragon.elc.iwate-u.ac.jp/jcf/NEW.HTMLにも掲載します。原稿提出締め切り、様式等詳細を2010年3月中旬に研究発表者にお知らせします。
8. 懇親会
3月5(金)の夜(18~21時)、懇親会を開催する予定です。参加申込書に懇親会参加/不参加をご記入ください。会費¥5,000は当日お受けします。
9. 宿泊
参加者は各自ご手配下さるようお願い申し上げます。
10. 次回ご案内
研究会プログラムは平成22年2月下旬にお知らせします。またホームページもご覧ください。http://dragon.elc.iwate-u.ac.jp/jcf/NEW.HTML
11. 参加申込
研究会への参加をご希望の方は、添付の参加申し込み用紙にご記入の上、平成22年2月15日(月)までに下記宛てお送りください。郵送、FAX、Emailいずれでも結構です。
12. 学生参加者旅費補助について
学生参加者への旅費補助(国内旅費のみ)を行います。ただし、助成金額は希望者数によって調整します。詳細は決まり次第追ってお知らせ致します。
■引用終了

以上

2009年11月20日金曜日

米国国防情報局が常温核融合を評価

vortex-lに投稿されたJed Rothwell氏の以下の記事で知りました。

http://www.mail-archive.com/vortex-l@eskimo.com/msg35851.html

以下のURLに米国の「Defense Intelligence Agency(アメリカ国防情報局)」が発行したレポートのPDFが掲載されています。例によって括弧内は私の勝手な和訳です。

http://lenr-canr.org/acrobat/BarnhartBtechnology.pdf
Defense Analysis Report
DIA-08-0911-003 13 November 2009
Technology Forecast: Worldwide Research on Low-Energy Nuclear Reactions Increasing and Gaining Acceptance
(技術予測:低エネルギー核反応の世界的な研究の進展と認知の高まり)

冒頭の本文を引用します。国防省の情報局が常温固体核融合を肯定的に評価していると思われます。認知の高まりを示す好例だと思います。

■引用開始
Scientists worldwide have been quietly investigating low-energy nuclear reactions (LENR) for the past 20 years. Researchers in this controversial field are now claiming paradigm-shifting results, including generation of large amounts of excess heat, nuclear activity and transmutation of elements. Although no current theory exists to explain all the reported phenomena, some scientists now believe quantum-level nuclear reactions may be occurring. DIA assesses with high confidence that if LENR can produce nuclear-origin energy at room temperatures, this disruptive technology could revolutionize energy production and storage, since nuclear reactions release millions of times more energy per unit mass than do any known chemical fuel.
■引用終了

■勝手な和訳開始
過去20年間にわたり静かに低エネルギー核反応(LENR)を調査している科学者達が世界中にいます。この論議を呼んだ分野の研究者は、パラダイムシフトをもたらす結果~多量の過剰熱、核反応の証拠、および核変換など~を主張しています。報告された全ての現象を説明できる理論は存在していませんが、何人かの科学者は量子レベルの核反応が起こっているかもしれないと信じています。DIAは強い確信を持って以下のように評価します: LENRが室温で核起源エネルギーを発生させられるなら、この破壊的な技術はエネルギー生産と格納を変革するでしょう。なぜなら、核反応の単位質量あたりの発生熱量は、既知のどんな化学燃料よりも数百万倍も大きいからです。
■勝手な和訳終了

以上

2009年11月8日日曜日

水野博士のICCF-15の発表

前回の記事「INFINITE ENERGY誌のICCF-15レポート」で紹介した「Scientific Overview of ICCF15」に水野博士の発表の概要が載っていましたので紹介します。

■引用開始
Mizuno (Hokkaido University) reported a confirmation of his earlier observations that heavy oil heated (T > about 500°C) at high pressure (> 60 atmospheres) with hydrogen gas in the presence of a metal catalyst produced heat. Heat generation of up to 100 W was observed for several hours. The experiment is reproducible, but the heat production is not stable. Both X- and gamma radiations were observed, with a “weak” but “reasonably significant correlation between heat generation and radiation emission.” Three reasons were given why the observed heat cannot be chemical in origin. At high temperatures, hydrogenation reactions are endothermic, there are virtually no chemical fuels (oxidizers included) in the cell and the excess heats are too large to explain chemically.
■引用終了

以下、上記の勝手な和訳です。

■和訳開始
水野(北海道大学)は金属触媒があるとき高圧(60気圧以上)の水素ガスと加熱された(約500℃以上)重油が熱を発生させたという彼の以前の観測の確認を報告しました。最大100Wの熱発生が数時間観測されました。実験は再現可能ですが、発生する熱量は安定していません。X線とガンマ線の両方が観測されました。「弱い」とはいえ「熱発生と放射線放出に十分有意な相関関係」が認められる。観測された熱の起源が化学反応である筈がない3つの理由があげられました。高温では水素化反応は吸熱します。セルの中にどんな化学燃料(酸化剤を含ふ)も実質的にありません。過剰熱は化学的に説明できないくらい大きいです。
■和訳終了

ICCF-15の講演資料が公開されていますが、水野博士の発表資料は以下です。

http://iccf15.frascati.enea.it/ICCF15-PRESENTATIONS/S7_O8_Mizuno.pdf

上記の記事の中で重油(heavy oil)と書かれているのは、「フェナントレン」の事です。素人として興味があるのは、水野博士がどういう着想からフェナントレンと水素という組合せに行き着いたのかという点です。他の研究者が主にパラジウムやニッケルといった遷移金属を中心に研究を進めている中、どこをどう捻るとフェナントレンが候補として出てくるのか、非常に面白いですね。

以上

INFINITE ENERGY誌のICCF-15レポート

vortex-lというメーリングリストに投稿されたJed氏のメールで「INFINITE ENERGY」マガジンのページにローマで開催されたICCF-15(第15回凝集系核科学国際会議)のレポート(PDF)が掲載されている事を知りました。

http://www.mail-archive.com/vortex-l@eskimo.com/msg35660.html
■引用開始
[Vo]:Infinite Energy covers ICCF-15
Jed Rothwell
Wed, 04 Nov 2009 11:25:04 -0800

This is great stuff! Here is a message from Christy Frazier:
Dave Nagel's fantastic coverage of the scientific program for ICCF15 is at:
http://www.infinite-energy.com/images/pdfs/nageliccf15.pdf

Marianne Macy's broad coverage of the general program and news from the session is at:
http://www.infinite-energy.com/images/pdfs/macyiccf15.pdf
. . .
She says some photos will follow.

- Jed
■引用終了
中身は読めていません。「nageliccf15.pdf」は題名が「Scientific Overview of ICCF15」となっており、ICCF15での発表の学術的な内容を概観できるようです。「macyiccf15.pdf」の方は題名が「ICCF15 in Rome, Italy」となっており、会議や出席者の様子を伝えているようです。

ちなみに後者には、次のICCF16の日程が暫定的に2011年2月6日~11日になったと書いてあります。場所はインドのChennai(チェンナイ)との事です。

■引用開始
ICCF16 is tentatively scheduled to be held from February 6 through 11, 2011 in the southern India city of Chennai (formerly known as Madras) at the GRT Convention Center.
The conference has rotated between three continents (North America, Europe and Asia) since its inception in 1990. This is the first time that the conference will take place in India.
■引用終了

また、「INFINITE ENERGY」の以下のページには参加者の写真が多数掲載されています。

http://www.infinite-energy.com/iemagazine/issue88/iccf15.html
Issue 88
November/December 2009
Infinite Energy Magazine
ICCF15 in Rome, Italy

以上

2009年11月4日水曜日

酸水素ガスと水の振動撹拌と常温核融合の関係?

以下の記事を見て「酸水素ガス」という面白い物質の事を知りました。

http://warren.jugem.jp/?eid=1200
日経産業新聞が取り上げた「酸水素ガス」は、トンデモ科学の臭いがする!
2009.08.30 Sunday

この報道記事しか見ていない段階でトンデモ科学とするのは時期尚早だと思いますが、私も記事以上の事は調べていないので、何とも言えません。

ところが、少し検索していたら、価格.comの掲示板の記事から更に面白い事が分かりました。発明者は、振動撹拌と常温核融合現象に関係があると考えているようなのです。以下、説明します。


上記の記事の中で、次の特許が参照されています。

http://kantan.nexp.jp/kouhou.html?kh=A/2009/67/2009028667&kp=pdf
特開2009-028667 水の改質方法
出願日:2007年7月27日
出願人:日本テクノ株式会社
発明者:有冨正憲、大政龍晋

この特許は、非常に単純に言うと「水を200時間かき混ぜたら、Mg、Zn、Ca、Al、Cu、Na、K、Seといった元素が出現します」という驚くべき事を主張しています。特許内容から引用させていただきます(赤字は引用者によります)。
■引用開始
【0006】
本発明者らは、振動数が100Hzを超えるような高周波振動、たとえば100~200Hzといった高周波振動を振動羽根に与えて振動攪拌をおこなうと、100Hz未満、とくに40~60Hzといったような低周波振動を振動羽根に与えて振動攪拌をおこなった場合に較べて、Mg、Zn、Ca、Al、Cu、Na、K、Seなどの含有量の増大割合が極めて大きいことを見出したのである。
とくに本発明による「水に対しての100Hz以上の高周波振動」を長時間、たとえば100時間以上行うと、後記の実験結果から明らかなとおり、少なくともMg、Zn、Ca、Al、Cu、Na、K、Seについては明らかにその含有量が顕著に増大しているという驚くべき事実を確認しているのである。この現象は一種の原子転換が起こっているのではないかとも考えられる
この現象から推測すると、超音波、例えば20~30KHzの超音波も、その利用の仕方によっては、本発明と同様の現象がおこる可能性がある。少なくとも高周波振動攪拌と超音波の併用は、本発明で起こっている現象を一層促進する可能性がある。
■引用終了
発明者は、常温核融合との関係を強く意識していて、ケルブランの生体内原子転換説を持ち出しています。
■引用開始
【0007】
従来から、原子転換という現象は、原子核が核分裂および核融合を起こす場合や原子核に粒子が衝突しておこる核変換によって発生することはよく知られている。
一方、フランスの生命科学者であり、ノーベル生理学・医学賞の受賞候補者にノミネートされたことのあるルイ・ケルブラン博士は、ニワトリに長い間カルシウムを全く与えず、硬い殻の卵を産めない状態にしておいた後、アルミニウムとカリウムからなる雲母を餌として与えたところ、硬い殻(カルシウム入り)の卵を産むようになったという事実に基づき、生体内で原子の転換が行われているとの説を発表している(C・L・ケルブラン著、桜沢如一訳、1962年12月10日、日本CI協会発行、「生体による原子転換」参照、ケルブランの紹介をしている本としては平成7年6月15日廣済堂出版発行、深野一幸著、「地球を救う21世紀の超技術」第212~217頁参照)。これはケルブランの
常温原子転換説と言われるものである。そして、ケルブランの著書には、約三千件にも及ぶ常温、常圧の原子変換の具体的事例が人、海水生息生物、植物、種々のバクテリアについてみられる、と述べられている。そして、その後少数の関係学者などにより自然界の水の原子転換の測定や生体内の原子転換の実証を試みたが、転換データは得られたもののその転換率は非常に微量であり、生体内という特殊環境下のため、その再現性が困難であったことなどから、今日までケルブランの生体内原子転換説は世界的学問として認知されていない。
【0008】
このような環境下において、馬渕幸作発明の特開2004-74074号公報では、密閉空間に原水を封入し、該原水中に高温高圧の蒸気を噴出させて、その蒸気の噴出力で原水を撹拌しつつ、閉鎖空間内を高圧(15~20atm)に維持した状態で所要時間原水を撹拌処理することにより原水中の成分の原子転換を介してミネラル成分を多量に含有したミネラル成分含有水を生成する方法を提案している。この明細書の実施例によれば、原水に較べてナトリウム濃度が約130%、カルシウム濃度が約50%増加したと記載している。しかし、この方法は、高温高圧というコストのかかる条件が不可欠であり、原子の増加率もそれほど高くはない。
また、九州大学大学院の梨子木久恒らは、特開2004-122045号公報において、筒状容器よりなる微細気泡発生器を水、その他の被処理液内に浸漬し、被処理液に好ましくは空気などの不活性気体を加えて微細気泡発生器内において高速旋回せしめ、その時に生ずる負圧とこの負圧によって生ずるキャビテーション気泡の圧壊時に微局所的に生ずる超高圧高温の反応を用いて前記被処理液の含有元素比率を変化させる方法と装置を提案している。
【0009】
微量のエネルギーによる元素転換は、ケルブランによる「生物学的元素転換」手段のほか、多くの研究者によって追求されてきたが、本発明は、「微量エネルギー」による元素転換が可能であり、また再現性があることを立証したものである
この微量のエネルギーによる元素転換は、現代物理学の常温核融合の概念に近いものであるが、常温核融合は、非常に制約された条件下で特定の物質に生ずるものとされているが、この微量のエネルギーによる元素転換は、今回の試験データでも分かるように自然界に存在している比較的軽い元素が、また生命維持にとって重要な元素が、相互に元素転換している事実を再現したものとも言える。
前述の先行文献などを参考にすると、本発明においては下記の反応が起こっている可能性が考えられる。
7N+ + 5B- →12Mg
12Mg + 8O →20Ca
20Ca + 8O + 1H→29Cu
29Cu + 1H →30Zn
9F++ 21H →11Na
また、前記反応のような元素同士の融合とは反対に、反応する元素同士の分裂、すなわち原子番号および原子量の減産的な元素の転換現象も起こっていると推定される。
12Mg →11Na + 1H
19K →11Na + 8O
処理水中の他の元素においても上記と同様の元素変換がおこり、各元素濃度が増減しているものと推定される。
微量エネルギーによる元素転換は、前述のようにケルブランによって「生物学的元素転換」とともに追求されてきたが、この発明において、微量エネルギーによる元素転換が確実に発生し、それが再現性のあるものであることが証明されたのである。
この微量エネルギーによる元素転換は、現代の物理学における常温核融合に近い現象であるが、従来の常温核融合は非常に制約された条件下で特定の元素にのみ生ずるものとされていた。ところが本発明における現象は、表1のデータからも明らかなとおり、自然界におけるありふれた軽量元素で、かつ生物の生命維持にとつて重要な元素が、相互に元素転換しているということであって、これはまさに驚くべきことである。
■引用終了
実施例として、実験の結果が載っていますので更に引用します。
■引用開始
【実施例】
【0062】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は、これにより何ら限定されるものではない。
【0063】
実施例1
(1)超純水の製造
水道水をカチオンH型イオン交換樹脂塔→脱酸素塔→アニオンOH型イオン交換樹脂塔に順次通すことにより純水を得た。
さらにこの純水を逆浸透膜で処理して、超純水とした。
(2)処理装置
実施例に用いた処理装置は、図23~27に示す。なお、下記装置において、水と接触する恐れのある部分および水と接触する部分は、すべて樹脂コーティング処理、本実施例ではエポキシ樹脂コーティング処理が施されている。
使用している高周波振動撹拌装置について、
(i)振動モータとして、ユーラステクノ株式会社発売、商品名ハイフレユーラスKHE2-2Tを用いた。ハイフレユーラスKHE2-2Tは、3相、200V、50サイクルの所では150Hzまで、60サイクルの所では180Hzまで可能、2種、モータ回転数:50サイクルの所では9000r/min、60サイクルの所では10800r/min、振動力2kN、出力0.15kW、全負荷電流:50サイクルの所では0.90A、60サイクルの所では0.55A、の性能を持つものである。
(ii)インバーター:富士電機株式会社のFRENIC 5000 HIIS
(iii)振動羽根:振動棒(直径12mmのSUS304製)2本にステンレスSUS304製の振動羽根3枚を図24および25に示すように固定したものであり、羽根のサイズは縦105mm、横100mm、厚さ0.5mmである。
(iv)密閉収納槽:ステンレスSUS304製のもので、その内面に2mm厚のエポキシ樹脂をライニングしたものであり、内容積は、17.7リットルである。
(v)密閉手段
(イ)密閉収納槽とその蓋との接合部分の密閉は、耐熱ゴムパッキング(厚さ3mm)を用いた。
(ロ)振動撹拌機の振動棒と蓋との間の密閉は図26に示す。図に示すとおり蓋における振動棒挿入部分にSUS304製のシリンダーをはめこんで蓋に溶接し、振動棒とシリンダーの内壁の間にはリング状のパッキングを入れた。パッキングは、上下がポリプロピレン製のキャップであり、中央がNBR製のゴムパッキングとした。
(3)超純水の処理方法
超純水15.0リットルを図23~27に示す密閉収納槽に充填、密閉し、インバーターを用いて振動モーターを135Hzで振動させ、常温で200時間振動撹拌を行った
(4)データの採取
東京工業大学の原子炉工学研究所所長であって、発明者の1人でもある有冨正憲教授が東京工業大学の誘導結合プラズマ質量分析計(ICP質量分析計)を用いて、平成18年12月20日に測定したものである。
【0064】
表1における超純水原料水の項のデーターは、製造後の超純水を測定したときのデーターであり、「超純水原料水200時間振動攪拌水」の項のデーターは図23~27の装置を用い、常温、200時間、135Hzで振動撹拌処理をした後の水を測定したときのデーターである。なお、表1中の濃度を示す数値の単位はppbである
■引用終了
実験結果は以下のようにまとまっています。はっきりと、MgやZn等の濃度が高まっていると読み取れます。実験内容が(撹拌装置に難しい技術が用いられているとしても)「水を掻き回し続けるだけ」というシンプルなものなので、混入や測定誤差といった要因も考えにくいように思います。実に驚くべき結果なのですが、誰かこの追試や理論構築に挑戦している人はいないのでしょうか? 再現するとしたら、たいへんな発見だと思うのですが・・・

■引用開始(表1)

■引用終了
以上

2009年11月1日日曜日

小島英夫博士の「科学する心と常温核融合現象」

「常温核融合」を科学する」の著者である小島英夫博士が「理大 科学フォーラム」2008.5 pp.30-37(2008)に執筆された「科学する心と常温核融合現象」という記事がPDFとして常温核融合研究所のWebサイトに登録されています。文献をスキャンして作ったPDFらしく、残念ながらGoogle等では内容を検索できません。

この記事は、常温核融合現象の全体像を示すと共に、複雑系の現象であると考える根拠が示されています。常温核融合現象は、なぜ定量的再現性がないのか等の疑問に対する考察として非常に示唆に富む文章だと思います。素人には難しい部分もありますが、常温核融合の事を知りたいと思った時にまず目を通すべき文献の一つだと思います。

この記事をテキスト化する事で、引用や検索がしやすくなると考え、本論の大部分にあたる「2.常温核融合現象(CFP)とは」から「3.常温核融合現象の科学」の11ページをテキストとして以下に引用させていただきました。興味を持たれた方は、是非、原文を見ていただければと思います。
なお、図と図の説明部分は引用しておりません(図を省略した部分には★印で注記しました)。また、指数の表記のように、私の知るHTML技では表現が難しいものはX**Yのような表記に勝手に書き直しました。正確に知りたい方も、是非、原文を参照いただければと思います。

■引用開始

2.常温核融合現象(CFP)とは

 1989年3月の末から数ヶ月の間、新聞や科学雑誌の紙面を賑わした「常温核融合(Cold Fusion Phenomenon, CFP)」発見のニュースを覚えている読者も多いことでしょう。しかし、その現象が辿ったその後の不幸な運命は知られていないと思われます。それは、CFPが世界の学会で市民権を得ることが出来なかったことの結果です。この17年間の研究の推移と当初「常温核融合」と呼ばれた事象を含む常温核融合現象(CFP)が、いかに興味のある現象で、多大の科学的・技術的可能性を秘めているかを説明しましょう。
 工業社会に不可欠なエネルギー源としての原子力に、核分裂と核融合反応を用いる二つの方式があること、核分裂反応を用いた原子力の平和利用は、放射性廃棄物の処理という未解決の難問を抱えているにもかかわらず、その利用が推進されざるを得ない状況にあることは周知の事実です。他方で、核融合反応を用いた原子力の平和利用は、膨大な予算を使った50年余の真剣な努力にもかかわらず、各国での成功の可能性が危ぶまれ、国際共同計画ITERという形で一本化して、これから50年をかけてその実現可能性を明らかにしようという、遠大な計画に結実しました。2005年、実験装置本体はEU主体に運営され、日本も主要な一翼を担うことで各国が合意に達しました。
 近代文明がエネルギー源の枯渇という危機に直面していることが真剣に議論されていた1989年の3月に、「常温核融合」という名で発見が報じられた常温核融合現象(CFP、Cold Fusion Phenomenon)は、エネルギー源としての可能な応用が予想されたために、かえって不幸なスタートを切ることになりました。その予想にからむ思惑は、その後の研究の展開に不幸な烙印を押してしまいました。現在もその影響は払拭されていません。科学とは無縁の、応用にからんだそのような夾雑物を取り除いて、CFPに含まれる諸事象を科学的に考察すると、そこには核物理学と固体物理学の中間の未知の領域に関係した新しい科学が含まれていることが分かってきました。

2.1 実験装置
 1989年3月に、フライシュマンとポンズは莫大な過剰熱を主とする、常温核融合現象に属するいくつかの現象を観測しました。
 それらの現象を説明するために、彼らは「d-d融合反応の起る確率が、PdDx合金中では真空中でに比べてとてつもなく(10**50倍程度に)大きくなる」という彼らの予想(フライシュマンの仮定)に基づいた解釈をつけて、結果を発表しました。殆ど同時に発表されたジョーンズたちの中性子のエネルギー・スペクトルの測定も、同じ仮定に基づいて計画され、解釈されたのです。彼らの用いた実験装置は、図1に示した模式図の(a)電解型です。その後、これらの三種の型の装置(図1)を使って多くの実験がなされ、多様な実験データが得られています。

(★図1を省略。原文をご覧ください★)

2.2 常温核融合現象の実験結果
 1989年から18年間に得られたCFPの実験データを、表1に要約しました。この表に示された各種の事象は、「フライシュマンの仮定(固体内でd-d融合反応が起る)がCFPの基本的反応ではない」ことを示しています。最も単純な事実は、重水素を含まない系(軽水系)でもCFPが起っていることです。

表1: 母体固体、動作核、実験法、核反応の直接証拠と間接証拠、測定量(物理量)の性質(蓄積型と散逸型)。過剰熱をQ、核変換をNTと略記。質量数4以下の核である重陽子d、トリトンt、ヘリウム3 3He、ヘリウム4 4Heの発生はそれぞれの核種の生成として、その他の、質量数が5以上の核種が生成される核変換(Nuclear Transmutation, NT)と区別している。

母体固体
Pd, Ti, Ni, KCl+LiCl, ReBa2Cu3O7, NaxWO3, KD2PO4, TGS, SrCeaYbNBcOd
エージェント
n,d,p,6-3Li,10-3B,39-19K,85-37Rb,87-37Rb,(イオン・ビーム)
実験法
電気分解、気体放電、気体接触、(高圧放電、イオン・ビーム照射)
直接証拠
ガンマ線γ(ε)、中性子エネルギー・スペクトルn(ε)、NT産物の空間分布NT(r)、核崩壊定数の短縮、核分裂しきい値の減少
間接証拠
過剰熱Q、中性子数N、系でのトリチウム量、核変換NT(NTd,NTf,NTa)、X線スペクトルX(ε)
蓄積型測定量
NT核、系内の変換核量、密閉系内のトリチウム量とヘリウム量
散逸型測定量
過剰熱Q、中性子数、ヘリウム量、発生粒子のエネルギー・スペクトル

 この表で、母体金属は水素同位体(軽水素Hあるいは重水素D)を多量に吸蔵(吸収し、安定に維持)する性質を持つ金属/化合物で、代表的なものはfccおよびhcp型遷移金属、および陽子伝導体と呼ばれる化合物です。エージェントは、母体金属に加えたときCFPを起こす条件を実現する原子・粒子で、重水素D、軽水素H(軽水素でもCFPが起る!)、Li-6,K-39,Rb-86などの原子、および熱中性子nがあります。
 熱中性子の役割は単純でなく、確立していません。これは中性子自体が、単純には測定にかからない素粒子であるためでもあって、CFPの捉え方によって、研究者の間でもその役割の評価には意見が分かれています。しかし、熱中性子(とそれより少しエネルギーの高いエピ熱中性子)が存在しないところではCFPが起こらず、熱中性子を人為的に照射するとCFPが増幅されることから、「熱中性子の存在はCFPの必要条件であると考えなければならない」というのが筆者の意見です。
 この表は、「母体金属とエージェントからなる一種の複雑系で、核反応が起ると考えないと説明しようのない多様な事象が観測されている」ことを示します。その事象の全体をまとめて常温核融合現象(CFP)と呼ぶのですが、それらの事象は二つの観点から分類できます。一つは核反応との関係から、もう一つは測定との関係からです。

1) 核反応の直接および間接証拠
 核反応との関係では、その事象に現れる物理量が核反応に直接関係するか、間接的に関係するかで、前者を核反応の直接証拠、後者を間接証拠と呼んでいます。
 新しい核種の生成やガンマ線の発生は、核反応を直接的に示しており、新しい核種の空間的分布と時間的分布は、直接証拠の中でももっとも価値の高い情報を与えます。中性子のエネルギー・スペクトルも直接証拠と考えられます。
 化学反応では説明できないほど大きな熱量の発生は、間接証拠と言えます。発生する中性子の総量も間接証拠に入れてよいでしょう。X線の発生は間接証拠です。

2) 蓄積型と散逸型物理量
 測定との関係では、事象に関係した物理量が蓄積型か散逸型かによって、測定精度に大きな違いが出てきます。当然、蓄積型の物理量の測定精度の方が高いと言って良いでしょう。
 蓄積型の物理量には、核変換によって生じた原子核(核種)と密閉系でのトリチウムやヘリウム4の総量が属します。
 散逸型の物理量には、系内で発生した熱量、中性子量などが属します。一般に、散逸型の物理量の測定精度を上げるのは蓄積型に比べて難しいものです。
 たとえば、核変換によって生じた核種の同定とその空間分布の測定は、散逸型の物理量である過剰熱やヘリウム量を正確に測定することに比べて容易です。
 表には書き入れてありませんが、核変換生成物の空間分布などから、CFPの核反応は試料の表面(あるいは境界面)で起ると考えられことは、重要な特徴です。

2.3 実験結果の解釈
 フライシュマンの仮定が正しいかどうかは、いろいろな点で興味のある問題ですが、その科学的可能性を検討しましょう。
 フライシュマンの仮定が正しいとすると、1フェムトメートル(10**-15m)程度の作用距離をもつ核力の作用に、10ナノメートル(10**-9m)程度の距離に存在する荷電粒子が影響を与えることになります(6桁の違いを日常生活空間で想像してみてください)。多くの識者が指摘しているように、このような現象が起ったとすると、現代物理学の基礎原理が改変されなければならないことになります。
 次に、社会的・技術的な影響は、主にエネルギー源に関係したものです。殆ど無限に存在する重水素がエネルギー源として容易に利用できることになりますから、エネルギー利用に一大革命をもたらすことになります(海水中の重水の濃度は0.015%)。莫大なエネルギー(とそれに付随した利益)が簡単に手に入るだろうという予想は、科学には無縁の秘密主義と特許申請競争をもたらしました。
 この二つの要因が、個人的(研究者による)および社会的(諸組織による)なCFPの評価を左右し、常温核融合現象研究を大きな社会問題にしました。
 時代風潮も絡んで、CFPの研究者とその所属する組織は、フライシュマンの仮定が正しいことに大きなメリットを感じとり、その正しさを予測する傾向が強められました。逆に、プラズマ核融合の研究者たちが条件反射的に感じたことは「寝耳に水」の有りえない現象ということで、強い拒絶反応を示しました。
 科学的には、CFPの特性である次の二つの要因が、主な論争点であると考えていいでしょう。一つは実験結果の定量的再現性で、もう一つは現象の理論的可能性です。
 再現性に関しては、不安定核の崩壊過程や高エネルギー粒子を用いたd-d反応でさえ確率法則に従うのです。したがって、複雑系でおこる、核反応を含むCFPには単純な定量的再現性が存在しないことは明らかです。CFPでは確率的あるいは定性的再現性しかないと考えるのが常識だと思えるのですが、定量的再現性の有無だけが論じられてきたのが実情です。
 理論的可能性に関しては、フライシュマンの仮定に捉われた論争が、表1に示した多様な実験事実から離れた、不毛な議論であることは明らかでしょう。この仮定が実験結果と矛盾することは最初の実験データがすでに明らかにしていたことであり、その後得られた実験データが示すCFPの多様な事象は、この仮定とはかけ離れているのです。ですから、科学すること本来の立場からは、全体のデータを総括的に説明する理論的枠組みを模索することが要求されます。
 CFP研究の歴史の教訓は、「世俗的な関心に惑わされてしまうと、科学者といえども科学する心を失ってしまう」ということです。科学する心が、科学研究においてだけでなく、日常生活においても大切なことを訴える意味で、CFPの発展期のエピソードは他山の石とすべき好例なのです。

3. 常温核融合現象の科学

 表1に示したCFPの諸事象の特性は、非常に複雑です。とくに、重水素を含まない系(軽水素)でもCFPが起ることに注意してください。全体が複雑系で起る一つの現象の諸相であると考えるか、それぞれ違った原因で起るいくつかの互いに無関係な事象群と考えるかによって、CFPにたいする科学的態度は違ってきます。われわれは、前者の立場に立って、CFPを統一的に説明する理論を探求することにします。

3.1 モデル--現象論的アプローチ
 このように複雑な現象を科学するときのアプローチの仕方の一つに、現象論あるいはモデル理論があります。実験事実に基づいたいくつかの仮定を骨組みとし、一つの可変パラメータを含むモデル(TNCFモデル)が考案されました[参考文献2-5]。このモデルの基本は、荷電粒子間の直接の核反応を考える代わりに、固体中に捕獲された準安定的な熱中性子を仮定し、それが核反応を媒介すると考えたことです。
 このモデルを使うと、多様な実験事実が定性的に、あるいは半定量的に説明できます[2,3]。特に、いくつかの事象が同時に観測された10例くらいの場合に、それらのデータの間の量的関係が一つのパラメータを決めることによって説明できることが分かりました。これは、モデルの有効性を示していると考えることができます。
 そこで次の段階として、この優れたモデルで仮定している、「固体中に捕獲された準安定的に存在する中性子」の性質を量子力学的に探求することにしました[4,5]。
 そのような視点でCFPに関係する原子核と固体の性質を調べると、そこには次のような未知の領域が残っていて、CFPに深く関係していることが分かります。

3.2 核物理学と固体物理学の未開拓分野

1)核物理学、
まず、原子核のエネルギー準位の中で、中性子の束縛エネルギーが非常に小さい励起準位(evaporation levels)の性質には、未知の領域が広がっています。とくに、個別の核種についての研究は未開拓の状態にあります。次に、中性子数Nが陽子数Zを大幅に超える超多中性子核(exotic nuclei)が見つかり始めました。その例には、10-2He, 11-3Li, 11-4Be, 32-11Naなどがあり、中性子がはみ出した分布neutron haloができています。(図2)

(★図2を省略。原文をご覧ください★)

2)固体物理学、
 他方、水素化遷移金属にも未知の領域が広がっています。その不思議な性質の一つには、結晶型による物性の違いがあります。1)bcc(体心立法型)とfcc(面心立法型)およびhcp(六方稠密型)遷移金属とでは吸蔵された水素の物性(拡散、振動)が全く違います。1)では陽子pあるいは重陽子dの波動関数は局在していますが(図3)、2)では局在していません。他方、CFPは2)のNi,Ti,Pdでは起りますが、1)のV,Nbでは起りません。陽子pと重陽子dの波動関数が遷移金属によって違う特徴を持つことは、その物性とCFPとに深く関係しているようです。
 当面の課題は、原子核と固体のこれらの性質を使って、CFPの諸事象を量子力学的に説明することです。その第一段階は最近のいくつかの論文に結実して、近著[4、5]にまとめられています。そこでは、実験データを整理して、CFPが複雑系の特徴を持つことも示しました。

(★図3を省略。原文をご覧ください★)

3.3 CFPの起るメカニズム-理論的予測

 水素化遷移金属における素粒子と原子核との量子力学的状態は、次のようにまとめられます: (1)fccとhcp型の水素吸蔵性遷移金属の中では、陽子(重陽子)波動関数が拡がっていて、格子核(格子点にある原子核)の波動関数との重なりがある。(2)吸蔵された水素同位体を介して格子核間に核力相互作用(超核力相互作用)が生ずる、(3)超核力相互作用の結果、格子核の励起状態にある中性子が中性子バンド状態(固体内に拡がった波動関数をもつ)に移行する、(4)バンド状態の中性子が表面で高密度の中性子媒質(CF媒質)を形成する、(5)CF媒質中の中性子が格子核および表面の異種原子核と相互作用してCFPを引き起こす。
 複雑系の量子力学的問題を正確に解くことは困難なので、以上の筋書きは定性的にしか基礎付けられていませんが、可能性は示せたと思っています。

3.4 複雑系の現象としてのCFP

 20世紀末の20年間に、これまでの自然科学観を一変させる、革命的な発見がありました。カオスを含む複雑系の科学の発展です。ガリレオやニュートンに始まる近代自然科学の成果は、対象を“解くことのできる現象”に限定して発展してきたのですが、手付かずの状態に取り残されてきた現象-三体問題から乱流まで-が、非線形ダイナミックスの対象として考察され、その特徴が調べられ始めました。自然の豊穣さが明らかにされ、力学的な複雑系から生命を含む超複雑な系までが、一つの視点で捉えられる可能性が示されたと言えるでしょう。
 常温核融合現象(CFP)を複雑系の視点で捉えることによって、今まで「再現性がない」としてネガティブに見られてきた現象が、逆に複雑系の特徴を現す現象としてポジティブに見えてきたのです。その例が、次の三つの法則です。
 1) 核変換生成核の安定性効果
 2) 過剰熱発生の逆ベキ法則性
 3) 過剰熱発生の分岐構造

(★図4を省略。原文をご覧ください★)

1) 安定性効果。CFPにおける核変換で、新しい原子核(原子番号Z)が生ずる頻度P(Z)(∝測定数Nob(Z))が、宇宙に存在する原子核(原子番号Z)の量H(Z)と正の相関を持つことが分かりました。[4,5] 原子核の安定度が高いほど宇宙に存在する量は多いと考えられますから、この法則性は「CFPでの核変換が恒星で起る核変換に似た性質のものである」ことを示唆していると考えられます。(図4)

2) 逆ベキ法則は、複雑系での反応で起ることが知られている法則で、その一例は地震のエネルギーEとその地震の起る頻度P(E)の関係(グーテンベルク・リヒターの法則)です:
  P(E) = AE**-1.7  (A:定数)
筆者の解析では、CFPにおける単位時間当たりの過剰熱Pの生ずる頻度N(P)は
  N(P) = A/P**b
で表わされ、この式のベキ指数bは1~2となります。(図5、6)

(★図5を省略。原文をご覧ください★)
(★図6を省略。原文をご覧ください★)

3) 分岐構造は、単純な非線形ダイナミックス系で詳しく調べられている構造で、系のパラメータを変化させたとき、系の安定状態が分岐して倍加する現象です。CFPの過剰熱を精密に測定することによって、分岐構造に似た現象が観測されていることが分かったのです。(図7)

(★図7を省略。原文をご覧ください★)

 元来、CFPの起る系は、開いた、非平衡状態にある、構成要素が非線形相互作用をしている系です。このような系は複雑系と呼ばれ、カオスや自己形成などのコンプレキシティ(複雑性)と総称される現象が起ることが知られています。上に述べた三つの法則性は、CFPが複雑性を示すことを実験データから明らかにしたと言えるでしょう。
 したがって、CFPでは、定量的再現性が存在しないことは当然ですが、場合によっては定性的再現性も存在しない、カオス状態になることもありえるのです。
 このような筋書きにしたがってCFPが起るとすると、「原子核物理学と固体物理学の境界領域における固体-核物理学と名づけられる学問領域を垣間見せてくれているのが常温核融合現象なのではないか」という期待が持てるのです。
 可能な応用に簡単に触れると、1)過剰熱のエネルギー源としての利用、2)核変換による有害放射性廃棄物の処理(無害化)、3)新しい有用核種の生成などは、最も容易に可能になるものでしょう。その際に必要な配慮は、確率は低いにしろ、核爆発に発展する可能性のある核反応であることを認識して、対応策を講じておくことです。いずれにせよ、常温核融合現象の科学が明らかになった段階で、応用についても考えるのが常道であることは、否定できない真理です。

 事実を正確に求め、その事実に基づいて論理を展開し、得られた結論に従って意思決定をするという科学的思考を身につけることによって、理性を与えられた人間の特権を生活に生かすことが、健全な地球社会を維持するために人類に課せられた義務なのだと思われます。また、それが125年前に理学振興の熱意を持って結集した若き理学士たちの思いを継承する道でもありましょう。[1]

■引用終了

以上











2009年10月29日木曜日

ICCF-15の講演資料がPDFで公開されています

ICCF-15(第15回凝集系核科学国際会議)のホームページに、講演資料がPDFで公開されています。ダンカン、McKubre、高橋、北村、荒田、佐々木、水野(敬称略)など、おなじみの研究者の名前の付いた資料が置いてあります。実験装置や実験結果のグラフなど、(中身は理解できない素人でも^^;) 楽しく見られるのでお薦めです。
以下、現時点での一覧(ディレクトリ一覧がそのまま見えてます)です。

Index of /ICCF15-PRESENTATIONS




[   ]
Opening_DeSanctis.pdf
26-Oct-2009 15:23
405K

[   ]
Opening_Tomellini.pdf
21-Oct-2009 12:52
1.4M

[   ]
P_21_Roussetski.pdf
23-Oct-2009 16:16
1.0M

[   ]
S1_O2_Duncan.pdf
21-Oct-2009 12:44
1.9M

[   ]
S1_O3_McKubre.pdf
21-Oct-2009 12:46
4.6M

[   ]
S1_O4_Hubler.pdf
05-Oct-2009 02:53
6.9M

[   ]
S1_O6_Violante.pdf
21-Oct-2009 12:47
2.5M

[   ]
S1_O8_Hagelstein.pdf
21-Oct-2009 12:48
667K

[   ]
S1_O9_Miles.pdf
01-Oct-2009 12:35
1.0M

[   ]
S1_O10_Zhang.pdf
23-Oct-2009 16:05
1.2M

[   ]
S2_O1_Hagelstein.pdf
02-Oct-2009 16:08
1.0M

[   ]
S2_O2_Kim.pdf
26-Oct-2009 10:00
1.3M

[   ]
S2_O4_Takahashi.pdf
26-Oct-2009 15:24
4.5M

[   ]
S3_O1_Apicella.pdf
05-Oct-2009 11:08
4.3M

[   ]
S3_O2_Kitamura.pdf
26-Oct-2009 15:24
346K

[   ]
S3_O4_Santoro.pdf
21-Oct-2009 12:42
371K

[   ]
S4_O1_Arata.pdf
23-Oct-2009 16:03
2.5M

[   ]
S4_O2_Scaramuzzi.pdf
02-Oct-2009 14:29
709K

[   ]
S4_O4_Li.pdf
23-Oct-2009 10:35
62K

[   ]
S5_O1_Lipson.pdf
21-Oct-2009 12:09
1.0M

[   ]
S6_O1_Mastromatteo.pdf
21-Oct-2009 11:18
772K

[   ]
S6_O2_Srinivasan.pdf
21-Oct-2009 11:20
1.5M

[   ]
S6_O5_Carpinteri_Lacidogna.pdf
26-Oct-2009 10:01
866K

[   ]
S7_O3_Santucci.pdf
26-Oct-2009 10:05
56M

[   ]
S7_O5_Sasaki.pdf
26-Oct-2009 15:24
925K

[   ]
S7_O6_Liu.pdf
23-Oct-2009 10:36
557K

[   ]
S7_O8_Mizuno.pdf
21-Oct-2009 12:13
624K

[   ]
S8_O2_Cook.pdf
23-Oct-2009 16:01
4.0M

[   ]
S8_O5_Dufour.pdf
26-Oct-2009 10:02
630K

[   ]
S9_O1_Storms.pdf
28-Sep-2009 07:21
1.3M

[   ]
S9_O2_Meulenberg.pdf
23-Oct-2009 15:57
278K

[   ]
S9_O4_Tasker (J.L.Mace).pdf
21-Oct-2009 11:13
819K

[   ]
S9_O7_Miley.pdf
21-Oct-2009 12:18
764K

[   ]
S9_O8_Bressani.pdf
03-Sep-2009 11:54
1.3M

[   ]
S10_O1_Sarto.pdf
21-Oct-2009 11:25
1.5M

[   ]
S10_O2_Lipson.pdf
21-Oct-2009 12:18
1.3M

[   ]
S10_O4_Castagna.pdf
21-Oct-2009 11:25
3.0M

[   ]
S10_O5_Bemporad.pdf
26-Oct-2009 09:58
15M

[   ]
S10_O8_Caneve.pdf
21-Oct-2009 17:00
892K


2009年10月26日月曜日

常温核融合研究所の「CFRL News」発行

小島英夫博士が所長を務められるCFRL(常温核融合研究所)の「CFRL News」が約一年ぶりに発行されたようです。以下にこのNewsのリストがあります。

http://www.geocities.jp/hjrfq930/News/news.html

ここから辿って、以下のURLでNo.73を参照できます。

http://www.geocities.jp/hjrfq930/News/CFRLJpnNews/CFRLNs73.htm
CFRL ニュース No. 73 (2009. 10. 20)

この中に以下の記事が出ていました。
■引用開始
5. JCF9でCFRLから3編の論文が発表されました。
上記のAPS2009,ACS2009, JCF9には、常温核融合研究所から幾つかの論文が発表されていますが、JCF9に発表した論文の表題を下に引用します。これらの論文は、下記の
CFRLウェブサイトのPapersの欄にReports of CFRL (Cold Fusion Research Laboratory)として掲載されておりますので、ご覧頂ければ幸いです。
http://www.geocities.jp/hjrfq930/Papers/paperr/paperr.html
(1) H. Kozima, “Non-localized Proton/Deuteron Wavefunctions and Neutron Bands in Transition-metal Hydrides/Deuterides” Proc. JCF9, pp. 84 - 93 (2009)
(2) H. Kozima and T. Mizuno, “Investigation of the Cold Fusion Phenomenon in the Surface Region of Hydrogen Non-occlusive Metal Catalysts; W, Pt, and Au“ Proc. JCF9, pp. 52 - 58 (2009)
(3) T. Mizuno and H. Kozima, “Heat Generation by Hydrogenation of Carbon Hydride” Proc. JCF9, pp. 41 - 45 (2009)
■引用終了
ここで新たに掲載された論文のうち、(3)“Heat Generation by Hydrogenation of Carbon Hydride”は、「常温核融合は本当だった! その12」で以下のように紹介されていた水野博士の画期的な実験についての論文ではないかと思います。
■引用開始
ステンレス合金製の炉(88cc)に、多環芳香族炭化水素フェナントレン0.1g投入し、高圧水素ガスで満たし密閉。白金とイオウも触媒として添加。水素を加圧すると、巨大な過剰熱が発生。さらに地球にほとんど存在しない炭素13が大量に発生した。
■引用終了
また、ICCF15については以下のように言及されていました。
■引用開始
6. ICCF15(October 5 ? 9, Rome, Italy)が開催されました
上記国際会議が開催され、下記New Energy TimesのウェブサイトにProgramとAbstracts of Papersが掲載されています。
http://www.newenergytimes.com/v2/conferences/2009/ICCF15/ICCF15.shtml
Abstractsのリストで見ると、Oral Presentation 71編、Poster Presentation 41編、Oral Presentationの内訳は、Fleischmann & Pons Experiment 10篇、Theory 21編、Experiment 40編ということになります。
相変わらず、Cold Fusion Phenomenonの全体像を捉える視点よりは、次々に得られる新しい実験データ、特に重水素系でのデータに偏った現象を追求する視点が強いようです。
■引用終了
小島博士は、常温核融合と言うと、何かと重水素とパラジウムによる過剰熱発生現象だけが偏重される点を苦々しく思っておられるようです。実際、常温核融合現象では多種多様な元素変換が起こっているようであり、それらを含めた全体的な現象の把握と理論構築が必要という指摘はとても重要だと思います。私もついつい重水素系の話題に注目してしまうのを反省してます。

以上

悪魔は細部に宿り給う

最近、Jed Rothwell氏の発言をボチボチ読む機会があるのですが、良いこと言ってるなぁと思う事が多く、結構ファンになってます。
ICCF-15に関する記事(2)」でも紹介したメーリングリストvortex-lに以下のような発言がありました。


http://www.mail-archive.com/vortex-l@eskimo.com/msg35337.html
Re: [Vo]:Rothwell has no opinion about theory
Jed Rothwell
Sat, 24 Oct 2009 11:50:31 -0700

I wrote:

Naturally, I see why theory is important to the researchers, but I am not a
> researcher, so it isn't my department. Glassware is important to them too .
> . .
>
That is not a joke, by the way. An experiment with the right theory but the
wrong glassware will still fail. Nature does not care whether the fault is
in the design or the execution. An airplane may crash because it is poorly
designed. A well-designed airplane may crash because the engines ingest
geese.

In experimental science the devil is in the details.


- Jed
赤字部分の勝手な和訳:
正しい理論に従って実践したとしても、間違ったガラス製品は壊れてしまう。自然界は、失敗の原因が設計にあるのか、実践にあるのかを区別しない。飛行機は不味い設計によって墜落するかもしれない。でも、ちゃんと設計された飛行機であっても、エンジンに雁が飛び込んで墜落するかもしれない。
実験科学では、悪魔が細部に宿っているのですよ。


「神は細部に宿り給う」という有名な言葉を意識してのものだと思います。常温核融合のように、実験が理論に先行している科学では、実験に頼る所が大きいため、ちょっとした実験上の不注意や偶然が実験結果やそれを元にした理論構築を台無しにしてしまうのが恐ろしい所ですね。独立した研究機関同士での追試のプロセスを踏んで、実験結果を確認し合いながら進むのが大切なんでしょうね。

以上

2009年10月24日土曜日

高騰する国際熱核融合実験炉の建設コスト

今回は熱核融合の話題です。

「ITER」という国際プロジェクトがあります。ITERとは、「国際熱核融合実験炉」の意でイーターと読みます。紹介のページから文言を拝借すると、「ITER計画は、平和目的の核融合エネルギーが科学技術的に成立することを実証する為に、人類初の核融合実験炉を実現しようとする超大型国際プロジェクトです、ラテン語の道や旅という意味も兼ねる「ITER」には、核融合実用化への道・地球のための国際協力への道という願いが込められています。」との事です。

このITERに拠出する資金についての記事をWikipediaから引用します。全部で1.6兆円とかたいへんな資金が必要とされています。
■引用開始
資金拠出
現状では、ITERの開発、建設と運用に関わる総資金は100億ユーロ(約1.6兆円)と見積もられている。2005年6月のモスクワでの会議で、ITER機構の参加メンバーは以下の比率での資金拠出に合意した。建設国であるフランスは50%を、EUとその他のメンバー国は10%をそれぞれ拠出する。伝えられるところでは、韓国の済州島で行なわれたITERの会議では非建設国メンバー6カ国は総費用の6/11、合わせて半分を少し超える拠出を行ない、EUは残る5/11を拠出する。工業的な協力で云うと他の5カ国、中国、インド、ロシア、アメリカの拠出は各々1/11で合わせて5/11となる。日本は2/11でEUは4/11を拠出する。
日本の資金面での協力は非建設国としての総額の1/11であったが、EUは特殊な状況を考慮して、日本が建設契約の2/11を負担する代わりに、カダラッシュの研究者の2/11を占めることに同意した。これにより、EUの人員と建設に関わる費用拠出の割合は5/11から4/11となった。また、その他にEUと日本共同で幅広いアプローチという関連研究プロジェクトを行い、その拠点を日本に置くことになった。
■引用終了
このITERについてBBCが報じた記事がある事を、Vortex-lに投稿されたJed氏のメールで知りました。

http://www.mail-archive.com/vortex-l@eskimo.com/msg35292.html
[Vo]:BBC article about ITER
Jed Rothwell
Fri, 23 Oct 2009 07:21:19 -0700

以下は、そのBBCの記事からの引用です。例によって括弧内は私の怪しい和訳です。

http://news.bbc.co.uk/2/hi/sci/tech/8103557.stm
Fusion falters under soaring costs
(天井知らずのコスト増に悩む核融合)
By Matt McGrath
Science reporter, BBC World Service
■引用開始
An international plan to build a nuclear fusion reactor is being threatened by rising costs, delays and technical challenges.(核融合反応炉を建設する国際計画は高騰するコスト、遅延、技術の難しさによって脅かされている)
Emails leaked to the BBC indicate that construction costs for the experimental fusion project called Iter have more than doubled.(EmailによってBBCにもたらされた情報によると、ITERの建設費用は2倍以上に跳ね上がっているとの事だ)
Some scientists also believe that the technical hurdles to fusion have become more difficult to overcome and that the development of fusion as a commercial power source is still at least 100 years away.(核融合の技術的なハードルは非常に高く、商用の電力を供給できるようにまるまでには100年以上かかると予想する科学者もいる)
At a meeting in Japan on Wednesday, members of the governing Iter council reviewed the plans and may agree to scale back the project.(日本で水曜日に開催された会議では、ITERの評議会メンバーは計画をレビューし、縮小案に同意したようだ)
■引用終了
日本のニュース記事を検索してみたのですが、この事を報じた記事は見つけられませんでした。これだけ金をかけて、実現に100年かかるかもしれないプロジェクトって、投資の価値が本当にあるのでしょうか?

以上

ICCF-15に関する記事(4)

常温核融合は本当だった! その13」で、北村晃博士と高橋亮人博士による「第15 回凝集系核科学国際会議(ICCF15)報告」が公開されていると知りました。

常温核融合は本当だった! その13」と重複するところもありますが、私が興味を惹かれた部分を引用させていただきます。
■引用開始
特筆すべきことは、ICCFシリーズの会議として、権威ある学術団体、イタリア化学会とイタリア物理学会が後援団体となりサポートを得たことであり、この意味で画期的な会議であった。“常温核融合”(凝集系核科学の世間的呼び名)の世界会議は、今までは、主催を選ばれた議長のもとでボランティア中心に企画・運営・実行するケースがほとんどであった。
■引用終了
イタリアの化学会や物理学会が後援していた件は「ICCF-15に関する記事(2)」で引用した「LENR-CANRのニュースページ」にも記載されていました。これは画期的な事だったのですね。

■引用開始
学術発表プログラムは電気分解による発熱現象の実験と理論解釈によって占められていた。Fleischmann-Pons Effect (FPE)を「正統づけんとする意思」が、主催者あるいは、会議の実質的な財政スポンサーとなったイスラエルのEnergetics社(S. Lesin がICCF15 副議長を務めた)とSRI(アメリカ)の関係者から強く働いた跡がうかがえた。
■引用終了
何が「正統」かなんて、どうでも良いと思うのですが、拘る人がいるんでしょうか。異端として虐げられてきた常温核融合研究の中にも「正統」の主張があるのは皮肉ですね。

■引用開始
まず、ミズーリ大学副学長のR. Duncan が、2009 年4 月に米国有力報道局CBS の「CBS 60 minutes」のCMNS/CF の肯定的報道で世界的に知れ渡った、Energetics 視察と発熱現象の確認に至る話を中心に講義して、学術的発表の先頭を切った。有名となった、Energetics+SRI+ENEA の共同研究の成果(発熱、材料分析、ヘリウム)の概略が述べられた。注目されたのは、神戸グループ(神戸大とテクノバの共同研究)のPd ナノ粒子と重水素(軽水素同時並行運転)でのガス吸蔵法による実験結果(PLA373(2009)3109 に刊行)を大きく採り上げて紹介したことである。
■引用終了
ここでもダンカン博士が登場してます。すっかり常温核融合研究者になってしまったみたいですね。この熱中しやすい感じが結構好きです(笑)。

■引用開始
理論のセッションに入れられていたが、A. Takahashiの神戸グループのナノPd 複合粒子パウダーを用いた重水素・軽水素同時ランによるD(H)吸蔵率測定と発熱のデータおよびその背景物理の報告は、ICCF15 でも最も注目された評判の良い発表のひとつであった。
■引用終了
これは「著名論文誌Physics Lettersに固体核融合(常温核融合)論文掲載」で紹介した、北村博士の論文と同じものなのかもしれません。

■引用開始
初日の夕方は、Energetics 社(イスラエル)がホストをしたレセプションが、バチカンの近くにあるサンタンジェロ城にて行われた。レセプションのハイライトは、ISCMNS が新しく設定した「Minoru Toyoda Gold Medal」(MTGM: 国際凝集系核科学会の豊田稔記念金メダル)の第一回受章者Martin Fleischmannへの授賞式であった。MTGM のいきさつが、故豊田稔氏のCMNS/CF 振興への大きな貢献の紹介を含めて、提案者の前ISCMNS 会長のA. Takahashi より紹介されたのち、絶大なる祝福の中でFleischmannに金メダルが手渡された。この賞の紹介は、ISCMNS のweb-site に見られる。
■引用終了
英国の凝集体核科学国際学会の「豊田稔ゴールドメダル」」でも紹介したメダルがフライシュマン博士に授与されました。療養しているフライシュマン博士が会場に現れるとは意外でした。これもCBS番組の賜物でしょうか。今回の心温まるニュースです。

■引用開始
続いて、K. Grabowski (NRL, USA)がMHI型核変換実験の追試結果を発表した。MHIで作製した試料を用いてNRLで実験したが、Cs→Prの核変換を確認できなかった。
■引用終了
この件は、Jed Rothwell氏の「Notes on ICCF15, part 1」にも大きく取り上げられていました。岩村博士の実験の信頼性が揺らいでおり(黄信号)、今後の追試の続報に要注意です。

■引用開始
次回のICCF16はインドのChennaiでM. Srinivasanの主催により2011年2月に開催される予定となった。それに先立つ2010年6月にはTorinoでworkshop on gas-loading methodの開催がイタリアのグループにより計画されている。
■引用終了
来年6月にトリノでガスローディング方式のワークショップが開催される可能性があるのですね。2011年2月は遠いなぁと思っていたので、間近の楽しみが増えて良かったです。

以上

2009年10月22日木曜日

Jed Rothwell氏による常温核融合論文の集計

ちょっと見ただけですが、LENR-CANR.orgのライブラリで面白い論文を見つけたのでメモ書きします。
Jed Rothwell氏が常温核融合論文類の集計結果をまとめたものです。

Rothwell, J., Tally of Cold Fusion Papers. 2009, LENR-CANR.org.

Aarhus University(オルフス大学)のDieter Britz氏の論文コレクションとLENR-CANRのデータベースに記録されている論文が対象となっています。

例えば、P6には、過剰熱の検出に成功した査読あり論文の件数が載っています。153本の論文が49種類の論文誌に投稿されており、筆頭執筆者は62名、共同執筆者まで含めると348名との事。この62名の筆頭著者を国別に分類したのが下表(P8のTable 3から内容を転載)です。

筆頭執筆者数
Bulgaria(ブルガリア)1
China(中国)3
France(フランス)2
India(インド)5
Italy(イタリア)7
Japan(日本)17
Korea(韓国)1
Russia(ロシア)5
Sweden(スウェーデン)1
Turkey(トルコ)1
USA(米国)19

これを見ると、1位は米国(19)、2位は僅差で日本(17)。少し離れてイタリア(7)、ロシア(5)、インド(5)、中国(3)と続いています。

一方、以下のリンクに、今まで15回開かれたICCFの開催地の一覧が載っています。

これを国別に集計すると以下のようになります。次回のICCFはインドで開催されるそうですが、上記の筆頭執筆者数と照らし合わせると、意外に順当な選択に見えますね。

開催回数
USA(米国)4
Italy(イタリア)3
Japan(日本)3
Monaco(モナコ)1
Canada(カナダ)1
China(中国)1
France(フランス)1
Russia(ロシア)1

以上

2009年10月20日火曜日

水爆と水素吸蔵金属

今回は本題とは関係ない話題です。
常温核融合現象には、母体固体として水素を吸蔵する金属が良く登場します。パラジウム、ニッケル、チタンはこの金属の仲間です。

この金属の仲間が意外な所で使われていた事を知りました。

常温核融合を否定するパーク博士は論文を読んでなかった?」で取り上げた「わたしたちはなぜ「科学」にだまされるのか」という本を図書館で借りてパラパラと見ていたら以下のような記述がありました。パーク博士がフライシュマン博士のインタビューを聞いて憤慨する場面です。
■引用開始
わたしは、耳を疑った。とんでもない、金属内の水素同位体の高濃度については、長年、研究が進められてきた。それどころか、チタン、スカンジウム、エルビウムなどの金属内の水素同位体は、パラジウム内の水素同位体の二倍から三倍の濃度にもなる。これらの金属は、核兵器のある部分で、重水素と三重水素(原子核に二個の中性子がある、水素の放射性同位体)を蓄えるために利用されており、完璧に安定している。
■引用終了
「核兵器のある部分」とは何なのかと思って検索してみたら、どうやら水爆(水素爆弾)の中核部分のようです。
リチウム (Li) という原子番号3の元素もアルカリ金属の一つで、水素と化合して「水素化リチウム」になる性質を持っています。Wikipediaの「水素化リチウム」の項を見ると、「重水素化リチウム(化学式:LiD)は核融合兵器の主原料の一つである」とあります。同じくWikipediaの「水素爆弾」の項を見ると、重水素と化合させた「重水素化リチウム」に、原爆による高温・高圧と中性子を浴びせかけるのが最も標準的な水爆の構成らしいとの事。「重水素と共に用いられるリチウムが、原爆から発生する中性子により三重水素に核種変化するので、重水素化リチウムを使用した水爆では三重水素は不要になる。リチウムの原子核に中性子を当てるとヘリウム4と三重水素の原子核が形成される」とあります。どうやら、製造が難しいトリチウム(三重水素)を使わずとも水爆を作れるように工夫した結果のようです。

こういう使い方がされていたとは意外でした。水爆の中で使われた実績を知っていたために、「完璧に安定している」という思い込みが発生したのかもしれませんね。

但し、リチウムについて言うと、体心立方格子(BCC)構造を持っており、リチウムを母体固体とした常温核融合現象は検出されていないようです。「「常温核融合」を科学する」(小島英夫著)には、「表2-1で、常温核融合現象の起こる母体固体は、面心立法(fcc)の「Pd」や「Ni」と六方稠密(hcp)の「Ti」の水素化合金で、体心立方(bcc)水素化合金では起こりません」(P55)とあります。

以上

2009年10月18日日曜日

ICCF-15に関する記事(3)

前回の記事でリンクだけ張ったJed Rothwell氏の記事「Notes on ICCF15, part 1」から興味深い部分を引用させていただきます。以下、※を付けた文は私の感想です。

[Vo]:Notes on ICCF15, part 1
Jed Rothwell
Mon, 12 Oct 2009 06:45:43 -0700
■引用開始
Many new and important results were presented. In contrast to recent conferences, there were no rehash presentations of research done long ago or results presented at earlier ICCF conferences, although many described progress or incremental improvements to work presented earlier. Both the audience and the presenters included many younger people, especially from the U.S. Navy, the ENEA and Japanese universities. By "younger" I mean people in their 30s and 40s, rather than retired professors in their 70s.
■引用終了
赤字部分の勝手な和訳:
聴衆にも発表者にも多くの若い人々が見受けられ、特に米国海軍研究所、ENEA、日本の大学からの参加が目立っていた。ただ「若い」と言っても30代や40代の事であり、70代の退任した教授達と比較しての話である。

※30代・40代の研究者が増えたのは朗報だと思います。常温固体核融合研究の一番の懸念は研究者の高齢化だったので、若い新規参入者が増えるのは素晴らしい事だと思います。
■引用開始
There appears to be lot of new funding for the research, perhaps a million dollars or more per year. That's a lot by the standards of cold fusion. There may be more effective funding now than there has been since 1990. I cannot judge whether the dollar amounts are greater, but the talent and instruments being brought to the subject are the best they have ever been, with people from the NRL and two or three U.S. universities with capabilities that rival long-time researchers at SRI and the ENEA.
■引用終了

赤字部分の勝手な和訳:
研究に対して新たに多額の投資が集まったようだ。おそらく年間100万ドル(約1億円)かそれ以上の額ではないだろうか。これは、常温核融合の標準からすれば十分に多額なのだ。1990年代に行われた投資に比べると今の投資はずっと効果的だろう。この金額がかつての投資金額を上回っているかどうかは分からないが、過去最高の人材と設備が集まってきている。NRLや2、3の米国の大学の人材や能力は長年にわたって研究を続けているSRIやENEAに匹敵するものがある。

※これも良いニュースです。熱核融合の予算に比べれば雀の涙かもしれませんが、政府機関や企業の認知が進んでいる事を示していると思います。
■引用開始
(I have to be circumspect about some aspects of this report, such as describing which universities are doing what. They have not yet gone public. They do not want to alert people such as Robert Park who oppose cold fusion. Park and others like him try to derail funding and destroy the researchers' reputations by various methods such as publishing assertions in the mass media that the researchers are frauds, lunatics and criminals.)
■引用終了
赤字部分の勝手な和訳:
このレポートのある部分は慎重に書かなければならない。例えば、どの大学が何をしているかについての記述だ。これらはまだ公になっていない。研究者は、ロバート・パークのような常温核融合に反対する人間に警戒体制を取らせたいとは望んでいない。パークや彼に類する人達は、投資を頓挫させ、研究者の評価をぶちこわそうとする。例えば、研究者が詐欺師、変人、犯罪者だとマスメディアで主張するといった様々な手段を使って。

※ロバート・パーク博士については、「常温核融合を否定するパーク博士は論文を読んでなかった?」でも取り上げましたが、常温核融合研究をまるで親の敵のように思っているようです。ニセ科学だと非難する人が必ずしも科学的とは限らない皮肉な例になっています。常温核融合の研究者側にも積年の恨みがある感じですね。Jed氏の記事はまだまだ続きますが今日はこの辺で終わります。

以上

ICCF-15に関する記事(2)

前回の記事でICCF-15に関する記事を拾ってみましたが、
に様々なレポートへのリンクが紹介されていました。
この中に、vortex-lという常温固体核融合関連のメーリングリストのアーカイブへのリンクがあり、投稿された記事に、おなじみのJed Rothwell氏のICCF15報告が載っていました。残念ながら(^^;、英文です。

[Vo]:Notes on ICCF15, part 1
Jed Rothwell
Mon, 12 Oct 2009 06:45:43 -0700

[Vo]:Notes on ICCF15, part 2
Jed Rothwell
Mon, 12 Oct 2009 07:03:26 -0700

また、LENR-CANRのニュースページにも簡単な記事が出ています。
■引用開始
The conference was sponsored by the ENEA (the Italian National Agency for New Technologies Energy and the Environment), the Italian Physical Society, the Italian Chemical Society, The National Research Council (CNR), and Energetics Technologies. The conference opened with brief lectures by the presidents of the Physical and Chemical societies. One hundred fifty four people attended, with more young researchers in attendance compared to previous ICCF conferences. Many new and significant experimental results were reported, in addition to several successful replications of the Arata nanoparticle gas loading technique. Arata himself reported increased heat from a new cell design and improved calorimetry.
■引用終了
上記記事によると、ICCF-15は、以下の団体が後援しているとの事(各団体のホームページへのリンクと括弧内の日本語訳は私が勝手につけたものです)。
ENEA (イタリア新技術エネルギー環境公団)
Italian Physical Society (イタリア物理学会)
Italian Chemical Society (イタリア化学会)
National Research Council (イタリア学術研究会議)

一番嬉しいニュースは上記の赤字で示した部分にある「154名が参加した。前回までのICCFに比べて若い研究者の参加が増えた。」という所でしょうか。「多くの新しく重要な実験結果と共に、荒田博士のナノ粒子を使ったガスローディング方式の複数の追試成功例が報告された。荒田博士自身は、新しいセルデザインと測熱方法の改善による熱量増加結果を報告していた。」ともあります。
引き続き引用します。
■引用開始
The conference revealed interest in the subject at a growing number of university and government laboratories in several countries. For example, impressive results were reported by researchers at the ENEA, SRI and U.S. Naval Research Laboratory (NRL), Kobe University and elsewhere. Better instruments, such as high precision microcalorimeters and custom designed mass spectrometers have been used to confirm the results and to characterize improved materials, leading to larger and more reproducible excess heat and other effects. As a result, better understanding about how the novel process works is being achieved.
■引用終了
今回の会議では、複数の国々の大学や国立の研究所がこのテーマに関心を持っている事が明らかになったとの事です。例として、後援しているENEAの他、SRIやNRL(米国海軍研究所)、神戸大学の名前が挙がっています。
後になって振り返ると、2009年は常温固体核融合が有望な学問領域として世界に再認知された「分岐点」となる年として記録されるかもしれませんね。

以上

2009年10月14日水曜日

ICCF-15に関する記事--気がついたものを拾ってみました

英語をちゃんと読んでないので(^^;、どういうサイトなのかサッパリ分かってないのもありますが、ICCF-15に関する記事が載っていた所を挙げておきます。もしかして、変なサイトだったらご容赦ください。

[1] NEXT BIG FUTURE
「ハイライト」として、荒田博士の発表が挙がっています。
赤字は引用者によります。

Highlights of the 15th Cold Fusion - Condensed Matter Nuclear Science Conference

■引用開始
OCTOBER 12, 2009
Highlights of the 15th Cold Fusion - Condensed Matter Nuclear Science Conference

On page 43 of the abstracts

Does Gas Loading Produce Anomalous Heat?

David A. Kidwell, Allison E. Rogers, Kenneth Grabowski, and David Knies
Chemistry Division, Naval Research Laboratory, Washington, DC 20375;
Materials Science and Technology Division, Naval Research Laboratory, Washington, DC 20375


On page 37, more work from Arata. Arata had previously published some of the best results in cold fusion. Where excess heat was generated even without heat being added.

PRODUCTION OF HELIUM AND ENERGY IN THE “SOLID FUSION”
Y. Arata, Y.C. Zhang, and X.F. Wang
Center for Advanced Science and Innovation, Osaka University
2-1 Yamadaoka, Suita, Osaka, 565-0871, Japan
・・・
■引用終了

[2] LaRouche
Dr. Stormsさんに取材したみたいです。

■引用開始
Deuteron Theory of Cold Fusion Proposed in Rome
October 5, 2009 (LPAC)--A new theory of cold fusion is being proposed at an international conference currently underway in Rome, according to an advance report from radiochemist and materials expert Dr. Edmund Storms.
・・・
■引用終了

[3] New Energy Times Blog
赤字は引用者によります。
新しい結果は幾つかあったが、多くは古株達のいつもの発表だった・・・と辛口で始まってますが、2~3の興味深い発表があった、詳細は後でね・・・と気を持たせる事が書いてあります。楽しみに待ちましょう。

■引用開始
Science at ICCF-15?
by Steven B. Krivit

ROME - Yes, there was some new science presented here but not much. A lot of regurgitating of old stuff. A lot of struggles to wrap fusion theories around results that don’t look like fusion. Is that science or is that fantasy?

Light-water results, which effectively negate the fusion hypothesis, were effectively discouraged from ICCF years ago. Transmutation results, which also negate the fusion hypothesis, are now being strongly discouraged from ICCF.

I did find a few new interesting presentations and those articles are forthcoming.

The field, in general, holds its ground this week as a result of this conference, but it gains no new ground. Back to the drawing board.
■引用終了
以上


2009年10月12日月曜日

常温核融合を否定するパーク博士は論文を読んでなかった?

物理学者のロバート・パーク博士が著した「わたしたちはなぜ「科学」にだまされるのか」(※1)という本では、常温核融合がニセ科学と言われているようです。この本を入手できていないのですが、Amazonの「商品の説明」を読むと、ニセ科学認定されているのは間違いなさそうです。

ちょっと検索してみると、以下のような雑誌の記事が見つかりました。パーク博士は常温核融合を目の敵にしておられたようです。

Make: Technology on Your Time Volume 03 オライリー・ジャパン 編集

P41から
■引用開始
ロバート・パーク(Robert Park)は、米国物理学協会(APS、American Physical Society)のPRライターだが、誰かの主張することが「疑わしい」と感じたら、それを主張した人間をひどく中傷、嘲笑し、徹底的に痛めつけることで知られている。ヴァローネが開催する会議に、かつてロスアラモス国立研究所に在籍し、常温核融合の可能性を主張している科学者が出席するということが彼にはどうしても気に入らなかったらしい。政府の施設にそのような「異端者」が招かれることが納得できなかったパークは、国務省の科学アドバイザーに就任したばかりのピーター・ジマーマン(Peter Zimmerman)と接触した。その結果、ジマーマンは自らに公式に与えられた権限を行使して、会議を中止に追い込んだ。
■引用終了
物理学者がどういう論拠で常温核融合をニセ科学としているのか興味があったので更にGoogleで検索してみた所、面白い事が分かりました。

この、Robert Park(=Bob Park)氏が執筆している「What's New」というホームページは毎週金曜日に新しい記事が発行されるようです。2009年3月27日の記事の最後に、「But I think it's science.(しかし、それ(常温核融合)は科学だ)」という一文があります(括弧内は私の勝手な和訳です)。なんと、パーク博士はニセ科学認定を撤回し、本物の科学だと言っているのです。

Friday, March 27, 2009

■引用開始(赤字・太文字は引用者が付加)
4. COLD FUSION: TWENTY YEARS LATER, IT'S STILL COLD.

Monday was the 20th anniversary of the infamous press conference called by the University of Utah in Salt Lake City to announce the discovery of Cold Fusion. The sun warmed the Earth that day as it had for 5 billion years, by the high temperature fusion of hydrogen nuclei. Incredibly, the American chemical Society was meeting in Salt Lake City this week and there were many papers on cold fusion, or as their authors prefer LENR (low-energy nuclear reactions). These people, at least some of them, look in ever greater detail where others have not bothered to look. They say they find great mysteries, and perhaps they do. Is it important? I doubt it. But I think it's science.
■引用終了

更に、この件は常温核融合を肯定的な立場から報じている「New Energy Times」で取り上げられていました。


このページの中に、先ほどの「What's New」の記事が引用され、以下のような題名が付けられています。(括弧内は私の勝手な和訳です)

Bob Park Concedes: LENR is Real Science
(ボブ・パーク敗北を認める: LENRは本物の科学だ)

更に、パーク博士が「Is it important? I doubt it.(それ(常温核融合)は重要だろうか? そうは思わないね)」と書いている事を皮肉って、J.B.S.ホールデン博士の以下の警句が引用してあります。

"Theories have four stages of acceptance:
(理論は4つの段階を経て認知される)
i. this is worthless nonsense,
(第一段階:馬鹿馬鹿しい話だ)
ii. this is interesting, but perverse,
(第二段階:面白そうだけど道理に反してるね)
iii. this is true, but quite unimportant,
(第三段階:本物だな。でもちっとも重要じゃない)
iv. I always said so."
(第四段階:俺はいつもそう言ってたじゃないか)
- J.B.S. Haldane

現状、パーク博士は上記の第三段階のようなので、もう少しすると「I always said so.」になるかもしれませんね(笑)。

ニセ科学説から本物の科学説へ転向したとしても、以前はどういう論拠でニセ科学と考えていたのか知りたくなります。そう思って更に検索していると、「常温核融合って論文は書かれてるの?」のエントリでも引用させていただいたJed Rothwell氏がRobert Park博士について言及したコメントを発見しました。以下、引用します。

SUNDAY, NOVEMBER 30, 2008
Bob Park roasts cold fusion, again

■引用開始(括弧内の和文は私の勝手な和訳です)
Jed Rothwell said...
Robert Park told me that he has never read a paper on cold fusion. I doubt that he has read anything, because in his many attacks on the subject, he has never once offered a technical argument against the experiments, but only ad hominem attacks against the researchers.
(ロバート・パーク博士は常温核融合に関する論文は一切読んだ事がないと私(=Jed氏)に言ってた。私も彼が何か読んだとは思えない。なぜなら、常温核融合問題について彼が攻撃する時には、一回も実験に対する技術的な議論をした事がないからね。いつも研究者に対して人身攻撃するんだ)

Since you worked at Exxon, perhaps you will be interested in this paper:

http://lenr-canr.org/acrobat/Lautzenhiscoldfusion.pdf


You will find a list of 3,000 other papers at this site, along with ~500 full text papers.

- Jed Rothwell
Librarian, LENR-CANR.org
■引用終了
如何でしょうか?
Jed氏の言葉を信じるならば、物理学者であるにも関わらず、多数出ている論文を一切読まずにニセ科学と決めつける。そして、世の中の認知が進んでくると、本物の科学だったみたいだね~等と言い出す。素人ながら、こういう態度こそが「ニセ科学」的なのだと怒りを感じます。

以上


(※1) 「わたしたちはなぜ「科学」にだまされるのか」
■引用開始
わたしたちはなぜ「科学」にだまされるのか―ニセ科学の本性を暴く (文庫)
ロバート・L. パーク (著), Robert L. Park (原著), 栗木 さつき (翻訳)

商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
人々を騒がす「UFO」騒動、政府や大企業が莫大なカネをつぎ込んだ「常温核融合」開発、「ビタミンOってなに?」本当に効きそうな「磁気治療法などの健康医療」、正確なデータのない「電磁波の影響」問題など―あなたのそばで、あなたを狙う「科学の顔」をしたニセ科学の素顔を暴いた話題の書、待望の文庫化。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
パーク,ロバート・L.
物理学者(物理学博士)。専門は結晶構造。メリーランド大学物理学部教授。アメリカ物理学会会員

栗木 さつき
翻訳家。慶應義塾大学経済学部卒(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

登録情報
文庫: 458ページ
出版社: 主婦の友社 (2007/09)
ISBN-10: 4072589802
ISBN-13: 978-4072589809
発売日: 2007/09
商品の寸法: 15 x 10.8 x 2.2 cm
■引用終了

2009年10月7日水曜日

地下への注水で地震が引き起こされる

昨日の記事で、「地下への注水により地震が起こった例」が沢山あると述べました。俄には信じがたい話なのですが、実は地震学の分野では良く知られた話らしいのです。

この例が地震学者の島村英紀博士のホームページに載っています。少し長いのですが、引用させていただきます。赤色は全て引用者である私がつけたものです。

人間が起こした地震
■引用開始
 米国コロラド州のデンバー市のすぐ北東で深い井戸を掘って、放射性の汚染水を捨てたことがある。米空軍が持つロッキー山脈兵器工場という軍需工場の廃液であった。それまでは地表にある貯水池に貯めて自然蒸発させていた。厄介ものの汚染水を処分するには自然蒸発よりはずっといい思いつきだと思って始めたのに違いない。井戸の深さは3670メートルもあった。大量の汚染水を捨てるために、圧力をかけて廃水を押し込み始めた。

 この廃液処理を始めたのは1962年3月のことだ。3月中に約16,000トンもの廃水が注入された。

 四月になって間もなく、意外なことが起きた。もともと1882年以来80年間も地震がまったくなかった場所なのに、地震が起きはじめたのだった

 多くはマグニチュード4以下の小さな地震だったが、中にはマグニチュード5を超える結構な大きさの地震まで起きた。マグニチュード5といえば、松代での群発地震の最大の地震に近い大きさだ。もともと地震活動がごく低いところだから、生まれてから地震などは感じたこともない住民がびっくりするような地震であった。人々はこの工場での水の注入が地震を起こしていることに気づき、ちょっとした騒ぎになった。

 そこで、1963年9月いっぱいで、いったん廃棄を止めてみた。すると、10月からは地震は急減したのである

 しかし、廃液処理という背に腹は替えられない。ちょうど1年後の1964年9月に注入を再開したところ、おさまっていた地震が、突然再発したのである

 そればかりではなかった。水の注入量を増やせば地震が増え、減らせば地震が減ったのだ。1965年の4月から9月までは注入量を増やし、最高では月に3万トンといままでの最高に達したが、地震の数も月に約90回と、いままででいちばん多くなった。水を注入することと、地震が起きることが密接に関係していることは確かだった。

 量だけではなく、注入する圧力とも関係があった。圧力は、時期によって自然に落下させたときから最高70気圧の水圧をかけて圧入するなど、いろいろな圧力をかけたが、圧力をかければかけるほど、地震の数が増えた

 このまま注入を続ければ、被害を生むような大きな地震がやがて起きないとも限らない。このため地元の住民が騒ぎ出し、この廃液処理計画は1965年9月にストップせざるを得なかった。せっかくの厄介者の処理の名案も潰えてしまったのであった。

 地震はどうなっただろう。11月のはじめには、地震はなくなってしまったのであった。

 こうして、合計で60万トンという廃水を注入した「人造地震の実験」は終わった。誰が見ても、水を注入したことと、地震の発生の因果関係は明かであった
■引用終了
上記は米国での事例ですが、日本でも実験をした例が上記のホームページに記載されています。
■引用開始
 日本でも例がある。前に話した長野県の松代町では、群発地震が終わったあと、1800メートルの深い井戸を掘って、群発地震とはなんであったのかを研究しようとした。その井戸で各種の地球物理学的な計測をしたときに、水を注入してみたことがある。

 このときも、水を入れたことによって小さな地震が起きたことが確認されている。しかもこのときは、米国の例よりもずっと弱い14気圧という水圧だったのに、地震が起きた
■引用終了
この松代町の注水実験については、以下にも状況が記されています。

日本の群発地震(Earthquake Swarms in Japan)
■引用開始
◇松代における毎日の有感地震回数の変化は、1966年に 2回の活動期があり、その後は徐々に沈静し、1970年末には、ほとんど終熄した。
1970年末までに震度I=57627回、II= 4706回、III=429回、IV= 50回、V=9回、有感地震総計 62821回、全地震数711341回である。 1つの地震の規模で最も大きいのは M=5.4で、地震の全エネルギーは、規模 6.4の地震 1つに相当する。
岩の中に注水すると地震が生じやすくなるという、いくつかの事例を検証するためにわが国ではじめての試錐が1969年から国民宿舎松代荘ではじまり、1933m(深さ1800m)掘って、1970年 1月15日~18日、 1月31日~ 2月13日の 2回にわたり計2883立方メートルの水を注入した。
その結果注入地点の 3km北で、 1月25日02時ころから急に地震がふえ、この 1日で54回に達した。地震活動は注水中続き、注水後徐々におさまった。この地点での地震活動は注水前は 1日 2回くらいだった。[21]
■引用終了
さて、上記の例はいずれも人間が意図して水を地下に注入した例でしたが、ダムを造って、地面に水圧をかける事で意図せず地下に注水する事になり、それによって地震が引き起こされたと思われる例も複数挙がっています。島村博士のホームページから例を一つ引用します。
■引用開始
 このほか、意図して水を地下に注入したわけではないが、ダムを作ったために地震が起きたり、あるいは地震が増えたことが世界各地のダムで確認されている。

 米国のネバダ州とアリゾナ州にまたがるフーバーダムは高さ221メートルもある大きなダムだが、1935年に貯水を始めた翌年から地震が増え、1940年にはこのへんでは過去最大になったマグニチュード5の地震が起きた。地震の震源は地下8キロにあった。もちろんダムの底よりはずっと深い深さだ。しかし、これはダムを作ったために起きた地震だと考えられている。
■引用終了
上記の例以外にも、ダムに貯水してから周辺で地震が起きるようになった例が幾つも紹介されています。

地震被害の多い日本では、当然、こういった人造地震(誘発地震 induced seismicity)の研究を進め、ダム建設等に際しては事前に入念なリスク評価が必要になってくる筈です。しかし、何故かそういう状況にはないようです。徳山ダムに誘発されたと思われる地震で大きな被害が出てしまったら、取り返しがつきません。一刻も早く調査と対策が講じられるよう、色々な人に働きかけて行きましょう。

以上

2009年10月6日火曜日

徳山ダムが地震を誘発するリスクにご注意を

まえがき
今回は、常温固体核融合とは関係ないかもしれない話題のエントリです。
重要だと思っているので、しばらくこの話題を続けるかもしれません。区別をつけるため、常温固体核融合のエントリには「常温固体核融合」というラベルを付け、今回から開始する地下への注水と地震の関係についてのエントリには「地下注水と地震」というラベルを付ける事にします。

以下のブログの記事が常温核融合を疑似科学とみなしておられたようなので、コメント欄で議論させていただきました。

民主党と常温核融合

元々の話題は、風間直樹議員が2007年10月31日の災害対策特別委員会で行った質疑(※3)の是非でしたが、議論が混線してもいけないので当初は特にコメントするつもりはありませんでした。
しかし、この記事を見た後、昨晩、アエラ09年10月12号(No.47)(※1)を見て、非常にビックリしたので、先ほど追加でコメントさせていただきました。【追記:2009年10月12日01時現在、私の追加コメントはまだ表示されていないようです。私の入力ミスなのか、未承認なのかは分かりません。本論にはさして影響がないし、何を書いたかを正確に思い出せないので、コメントの再録は致しません。】

コメント欄ではうまく手短に表現できなかったので、改めてここで述べさせていただきます。

まとめ
(※1)に示したアエラの記事「ダムが地震を誘発する」(P75~77)には、08年5月に試験湛水が終わった徳山ダムの周辺で09年1月18日から9月30日までに約1000回もの地震が起こった事実が記されています。一方、07年4月に発行された山本寛氏の著書「仮説 巨大地震は水素核融合で起きる!」(※2)では、地下への注水により地震が引き起こされる現象が指摘されており、実に徳山ダム周辺で地震が起こるリスクが予想されていたのです。もし、山本寛氏の想定が正しいとすると、徳山ダム周辺では今後も地震が続き、最悪の場合、大地震が起こるリスクがあると考えます。
早急に有識者による対策会議が必要だと思うので、いささか大袈裟かもしれませんが、まず風間議員に本件を連絡するつもりでいます。今後の動向には要注意だと思います。

参考文献
補足
幾つかの調査・研究結果から、「地下に注水すると地震が起こる」という奇妙な関係性が指摘されています。地下への注水により地震が起こった例や、ダムに湛水した後、ダム周辺で地震が頻発するようになった例は実は沢山存在するのです。
この現象を説明する仮説を提示したのが上記の(※2)の著作です。この本には、地下に注入された水が、地中に含まれる金属成分で酸素を剥ぎ取られ、水素原子状になって、何らかのプロセスで水素核融合爆発を起こすのが地震の正体ではないかとの仮説が述べられています。この仮説自体は「仮説」に過ぎませんが、仮説の元となった水と地震の相関関係(事実提示)には注目すべきです。

驚くべき事に、(※2)の本には、徳山ダムが地震を引き起こす事が予想されています。アエラの記事(※1)で記された今年発生している事態が07年4月発行の本で予想されていたのです。

ちなみに、風間議員が質疑の中で述べている仮説は理解が間違っていると思います。しかし、風間議員の本来の質問の趣旨は、CO2貯留やダム建設のプロジェクトでは、必ず誘発地震の可能性とリスクを調査すべきだというもので、至極真っ当な見解だったと思います。
風間議員の主張は以下と理解しています。
  • 米国では水やCO2の地下への注入によって地震が発生する危険性がある事が公式に認知されていて、事業者が守るべき法律まで制定されている。
  • また、「ダムを造ると、その後地震が発生する」という報告もされており、地質調査所で以下のような結論をまとめている
    (1)貯水による誘発地震を考慮する必要がある。
    (2-1)自然に起きる最大の地震よりも大きな地震を誘発することはないだろう。
    (2-2)その地域で自然に起きる最大規模の地震の発生の可能性は高くなるかもしれない。
    (3)もしダムを建設するなら、ダム着工前に地震計を多数配置して基礎データを集める必要がある。
  • 既にこれだけの認識が米国にはあるのに、地震多発国日本では全く問題にされてないのはオカシイ。CO2貯留やダム建設のプロジェクトでは、必ず誘発地震の可能性とリスクを調査すべきだ。

以上

2009年9月26日土曜日

再現性が乏しいから信用できない?

常温固体核融合の実験に対して、「再現性が乏しい実験など信用できない。そのような実験に基づくのは似非物理だ」との批判があります。一見正論に見えますが、この批判は正しくありません。定量的な再現性に乏しいのは、実験条件や実験環境に不備があるのではなく、常温固体核融合現象の本質的な性質だと考えられているからです。

常温固体核融合の実験に再現性が乏しいと言われるのには、以下の2つの原因があると思われます。
  1. 1989年当時、実験環境の不備や測定の誤りによって、信頼性の低い実験データが報告された事があった。
  2. 常温固体核融合現象は「ゆらぎ」を避けられない「複雑系」の現象である。実験環境を整えたとしても、コントロールできない要因が残っており、本質的に定量的な再現性は期待できない。
1989年のフライシュマン博士とポンズ博士の発表の無茶な要約をすると、「重水の中にパラジウム電極を突っ込んで電気分解したら核融合が起こったみたい」というものでした。一見とても簡単そうな実験条件を見て、多くの科学者が再現に挑みました。ところが、簡単に見えながら、化学実験と核物理実験の両方の知識がいる「学際的」な実験であったため、初期の頃には不備や誤りが多発したようです。ノイズを拾ってしまったり、計測値の読み方を間違っていたりと、それぞれの専門家(化学者または核物理学者)が見れば簡単に分かる話でも、片方だけの専門家だと門外漢分野での誤りを見つけられなかったのです。特に核物理学の世界は、「中性子測定の一流プロ」とか「ガンマ線測定の一流プロ」という数名の人たちがいて、この人たちに頼まないと本当に精密な測定は難しいといった凄い世界のようで、初期の誤りとしては仕方のない面もあったと思います。これが上記の「1.」です。この点については、「再現性が乏しい実験など信用できない」という批判は正しいでしょう。
(1989年の状況については、「常温核融合スキャンダル」を参考にしました)

問題なのは「2.」の方です。1989年当初に再現性が非常に悪かったのは、当時はまだ誰も気づいていなかった隠れた再現条件があったからです。この隠れた再現条件の代表例が、パラジウムの表面の凸凹さです。「ミズーリ大学の固体核融合に関するセミナー」に紹介したダンカン博士のプレゼンに登場するEnergetic Technologies社では、パラジウム箔の表面を超音波加工して荒立たせているようです(「ultrasound-induced surface roughening」)。また、「著名論文誌Physics Lettersに固体核融合(常温核融合)論文掲載」で紹介した荒田博士の実験では、ナノサイズのパラジウム粒子(パウダー)が用いられています。これも表面積を増やし、表面を荒立たせるのと同じ効果を狙ったものだと思います。
パラジウムを使った常温固体核融合現象では、反応はパラジウムの界面(表面)付近で起こる事が観測されています。しかも、全域で均一に起こるのではなく、何かのきっかけで局所的に発生するらしいのです。つまり、非常に微視的な条件(もしかするとパラジウム表面のナノレベルの凹凸の形のようなものかもしれません)が、現象の発生を決定付けているらしいのです。この性質から、常温固体核融合現象には「定性的再現性」があるという言い方がされています。逆に言うと、「定量的再現性」は元々無いかもしれないのです。

この「定性的再現性」については、小島英夫著「「常温核融合」を科学する」に的確な説明があったので引用させていただきます。

P107~P108
■引用開始
2.12 定性的再現性
 フライシュマンたちの実験を1.2節で紹介したときにも述べたことですが、常温核融合現象の実験では、同じ条件(人為的に制御できる巨視的条件)で実験しても、結果がまったく同じになることはほとんどありません。
 得られる物理量「」の測定値「x」は一定せず、得られるまでの時間も不定で、場合によっては一度起こった現象と同種の現象が次に起こるまでに数ヶ月かかることもあるのです。これは、筆者が行った実験での経験でもありますし、親しく交流をもった多くの実験家の経験でもあり、著名な実験家が会議で表明していることでもあります。

 このような経験は、巨視的(マクロ)条件を実験者が設定しても、人為的にはコントロールできない微視的(ミクロ)条件が常に存在し、その微視的条件が現象に大きな(ときには本質的な)影響を与えるときに起こることです。
 また、常温核融合現象では、“原因”である「原子過程」のエネルギー量と、“結果”である「原子核過程」のエネルギー量とに、百万倍(10**6)もの違いがあることが、現象の定性的再現性を際立たせている点も見逃せません。
 定性的再現性の身近な例としては、割り箸を割って出来る2本の箸の形が一定しないことがあります。
 割り箸の外形はみな同じですが、割った結果は同じにはなりません。それぞれの割り箸の木目が違っていることを知っていれば、この結果は当たり前と思って誰も問題にしません。しかし、木目というミクロ構造の存在を知らなかったら、この結果は不思議この上ないことでしょう。
 はじめの形(マクロ条件)が同じなのに割った結果の箸の形が違うのですから、割り箸を割る行為(現象)には再現性がないことになり、科学的に説明できない不思議な現象ということになってしまいます。

 このように、“同じ”(と思っている)条件の下で起きる現象の結果が違ってしまうことは、複雑な系ではよく起こります。このような現象を、「定性的再現性」をもつ現象と呼びましょう。
 常温核融合現象では、同じマクロ条件で実験しても得られる結果は違っていて、事象の起こる強さと頻度は一定しません。箸が二つに割れることはほとんど間違いなくても、割口の形は一定しない(定量的に同じでない)のと同じです。

 「定性的再現性」という考え方(概念)を使うことによって、常温核融合現象の実験結果が整理しやすくなることは、これからの説明で明らかになるでしょう。
■引用終了
如何でしょうか?
「常温固体核融合の実験には定量的な再現性がないから、現象が起こっているとは信じられない」と言うのは、「割り箸を割って出来る2本の箸の形が違うから、割り箸が割れたとは信じられない」と言っているようなものです。常温固体核融合の研究は、「複雑系」の研究だという認識を持った方が良いのです。

まぁ、偉そうに書いてますが、私も調べてみて初めて「定性的再現性」という概念を知りました。こういう事情があるから、簡単には発見されなかったのでしょう。一見簡単そうに見えて、実は奥深い現象なのが面白いですね。

以上