正月休み中に、元旦早々、驚きの講演動画を見てしまったので紹介します。
3つの「劣化ウラン弾」の秘密 - 出版記念講演 (Emilio Del Giudice 編).mp4
http://www.youtube.com/watch?v=EtdM8xIR9JI
米軍が中東等で用いた「劣化ウラン弾」は、深刻な被害の元凶として批判されています。「ウラン」と言っても、核分裂を起こすウラニウム235を取り去った後のウラニウム238が主成分なので、核反応は起こさないと考えられています。弾頭として用いられるのは、その比重の重さと硬さから、他の金属よりも貫通力や燃焼力に優れているからだと言われています。
ところが、この講演では、劣化ウラン弾を使用した跡地から、通常よりも高濃度なウラニウム235が検出されたり、弾頭の燃焼とは考えにくい戦車の溶解(たいへんな熱量が必要)の残骸が発見されている事から、実は、核反応が起こっているのではないか、つまり、劣化ウラン弾とは超小型の核爆弾ではないのか・・という疑惑について説明しています。かなり陰謀の推理の要素がありますし、この講演の中ではエビデンスとなる資料が示されていないので、鵜呑みにしない注意は必要ですが、非常に興味深い仮説です。
かなり長いイタリア語の動画に日本語字幕をつけてくれたネメシスさんの努力は素晴らしく、たいへん感謝します。どうもありがとうございました。ただ、私は、リチャード・コシミズ氏の主張する陰謀論は支離滅裂で論じるに値しないと思っており、そのブログのコメント欄に紹介を載せておられるのは残念です。信頼度が傷つくのが勿体ないと思います。
さて、動画の中身ですが、本の共同執筆者であり、イタリアの常温核融合研究者でもあるエミーリオ・デル・ジュディチェ博士が、核分裂爆弾の持つ「臨界質量」の制約に縛られず、小型化を可能とするために「常温核融合」技術がどう使われるのかの仮説を説明しています。
前半は、(一部を除いて) 分かりやすい常温核融合の説明になっています。フライシュマン博士やプレパラータ博士の業績や追試のポイントなども、比喩を使って素人向けに語ってくれています。後半が、常温核融合で使われる水素吸蔵のテクニックをウランに対して使ったのではないかとの疑惑の説明です。このような可能性の示唆を見るのは初めてですが、説得力があります。また、この軍事利用技術を隠すために、常温核融合が非難されるように仕向けられてきたのではないかとの疑問についての言及も興味深い指摘です。
以下、内容についての簡単なメモです。興味のある方は、是非、動画の方を視聴していただければと思います。
- パラジウムなどの金属に重水素を吸収させて常温核融合反応を起こすと、過剰熱と同時にヘリウムが発生する事が知られている。
- この時、パラジウム原子と重水素原子の比率が1:1程度になるまで重水素を吸蔵させるのがポイント。この密度を超えるあたりから常温核融合反応が始まる。
- パラジウムと重水素で常温核融合を起こした際には、重水素だけでなく、パラジウムの側にも変化が起こっている。事後にパラジウム電極の元素を分析すると、ニッケルが検出される。パラジウムの原子番号は46、ニッケルの原子番号は28。だいたい半分くらいにパカッと割れてニッケルになった感じ。激しいエネルギー放出を伴わないので核分裂というより、核分割という表現が相応しいだろう。
- このパラジウムの核分割はエネルギーを食う反応。つまり、重水素が融合してヘリウムに変わる時に放出するエネルギーを減じる方向に作用する。
- ここで、パラジウムの代わりにウランを使ったらどうなるだろうか? 実は、ウランは優秀な水素吸蔵金属である。そして、パラジウムとは逆に、核分割の際には膨大なエネルギーを放出する。常温核融合反応が起こる寸前まで重水素を吸蔵させておき、着弾した時に何らかの刺激で反応を起こす仕組みが作れれば、ライフル弾の大きさで大砲の威力を持つ兵器が作れるのではないか。
- 湾岸戦争の跡地では、ドロドロに溶けた戦車が見つかっている。通常兵器では、このような高い熱量は生み出せない。ここで説明した超小型の核爆弾が使われたのではないか?
- 「劣化ウラン弾」と言われているが、これは三種類の効果を持つ弾頭ではないか。一つ目は、ウランの硬度を活かした表向きの看板通りの劣化ウラン弾。二つ目は、原子炉などから出る「使用済み核燃料」を使用して、放射性の微細粉塵で環境を汚染し病気を引き起こす「汚い爆弾(ダーティー・ボム)」。そして、三つ目が高エネルギーを発する「超小型の重水素ウラン核爆弾」である。
さて、関連する論文を探すために、Lenr-Canr.orgのライブラリをUranium(ウラニウム)のキーワードで検索すると11件の論文がヒットしました。この中で、ICCF-17で発表されたSongsheng Jiang博士(所属は中国の原子力研究所らしい)の論文が重水素を吸蔵させたウラニウムからの中性子バーストについて述べています。
Jiang, S., et al.
Neutron burst emissions from uranium deuteride and deuterium-loaded titanium.
in 17th International Conference on Cold Fusion. 2012. Daejeon, Korea.
ICCF-17の予稿が以下にあったので見てみると、重水素を吸蔵させたウラニウムからの中性子放射を調べたとあります。
http://newenergytimes.com/v2/conferences/2012/ICCF17/papers/Jiang-Neutron-Burst-Emissions-ICCF17-ps.pdf
We have measured the neutron random and burst emissions from the uranium deuteride and deuterium-loaded titanium samples at room temperature.
実験の詳細は不明ですが、結果については、明らかに中性子バーストが断続的に起こっているとしています。
The result clearly shows that anomalous neutron bursts occur intermittently in the uranium deuteride and deuterium-loaded titanium samples.
また、「cascade neutron bursts」が観測されたと考えてる、との主張があります。たぶん中性子放出の連鎖反応が起こっていると言ってるのだと思います。これまで、常温核融合反応では、ねずみ算式に連鎖拡大するケースは見つかっていないと理解していたので、驚きでした。劣化ウラン弾の正体に繋がるかどうかは分かりませんが、軍事的な用途への展開も含め、非常に凄い事を言ってるのではないかと思います。
This paper reports a new result of neutron burst emission from deuterium-loaded metals. In addition to neutron bursts induced by cosmic-ray spallations, the cascade neutron bursts are observed occasionally for uranium deuteride and deuterium-loaded titanium samples. After accidental artifact noise and cosmic-ray source are ruled out, we suggest that the cascade neutron bursts are correlated with the deuterium-loaded metals and may originate from nuclear reaction occurring on the metal surface with a micro-nanometer size [5, 13], but do not occur in the bulk materials and whole surface.
以上
自分のためのメモとして、ライブラリでUraniumのキーワードにヒットした論文の一覧を挙げておきます。
2002
Dash, J., et al. Effects of Glow Discharge with Hydrogen Isotope Plasmas on Radioactivity of Uranium. in The 9th International Conference on Cold Fusion, Condensed Matter Nuclear Science. 2002. Beijing, China: Tsinghua Univ. Press.
2003
Dash, J. and D. Chicea. Changes In The Radioactivity, Topography, And Surface Composition Of Uranium After Hydrogen Loading By Aqueous Electrolysis. in Tenth International Conference on Cold Fusion. 2003. Cambridge, MA: LENR-CANR.org.
2000
Dufour, J., et al. Hydrex Catallyzed Transmutation of Uranium and Palladium: Experimental Part. in 8th International Conference on Cold Fusion. 2000. Lerici (La Spezia), Italy: Italian Physical Society, Bologna, Italy.
2000
Dufour, J., et al., Hydrogen triggered exothermic reaction in uranium metal. Phys. Lett. A, 2000. 270: p. 254.
2001
Dufour, J., et al., Experimental observation of nuclear reactions in palladium and uranium -- possible explanation by hydrex mode. Fusion Technol., 2001. 40: p. 91.
1998
Forsley, L., et al. Analyzing Nuclear Ash from the Electrocatalytic Reduction of Radioactivity in Uranium and Thorium. in The Seventh International Conference on Cold Fusion. 1998. Vancouver, Canada: ENECO, Inc., Salt Lake City, UT.
2007
Hora, H. and G.H. Miley, Maruhn-Greiner Maximum of Uranium Fission for Confirmation of Low Energy Nuclear Reactions LENR via a Compound Nucleus with Double Magic Numbers. J. Fusion Energy, 2007. 26: p. 349-355.
2008
Hora, H., G.H. Miley, and K. Philberth. Radiochemical Observations for Comparison of Uranium Fission with Low Energy Nuclear Reactions LENR. in American Physical Society Meeting. 2008. New Orleans.
2012
Jiang, S., et al. Neutron burst emissions from uranium deuteride and deuterium-loaded titanium. in 17th International Conference on Cold Fusion. 2012. Daejeon, Korea.
2009
Miley, G.H., et al., Radiochemical Comparisons on Low Energy Nuclear Reactions and Uranium, in Low-Energy Nuclear Reactions and New Energy Technologies Sourcebook Volume 2. 2009, American Chemical Society: Washington DC. p. 235-252.
1998
Monti, R.A. Nuclear Transmutation Processes of Lead, Silver, Thorium, Uranium. in The Seventh International Conference on Cold Fusion. 1998. Vancouver, Canada: ENECO, Inc., Salt Lake City, UT.