2008年5月22日に荒田吉明博士が公開実験に成功した際、「真っ当な物理学ならまず論文を出すべき」「いきなり記者会見するのは邪道」といった趣旨の批判がありました。でも、実は調べてみると、この20年間に固体核融合(常温核融合)に関する論文は多数書かれています。もちろん荒田博士も書かれています。荒田博士としては、これだけ多数の実験結果や論文が出てきており、しかも、エネルギー問題を解決する可能性のある重要テーマなのに関心(=投資)が集まらない状況に業を煮やしての公開実験だったのだろうと想像してます。
おそらく上記の批判は、1989年にフライシュマン博士とポンズ博士がユタ大学で記者会見を行ったにも係わらず、その後、追試がなかなか成功せず、1年ほどの内にJunk Scienceとの烙印を押された過去の経緯を念頭に置いてのものだと思います(1989年当時の事情については、ガリー・トーブス著「常温核融合スキャンダル」に詳しく記述されています)。当時はたしかに「功を焦って論文を書く前に記者発表した」状況でした。
しかし今は違います。20年間マスメディアから無視されている間に、地道な実験事実が積み重ねられています。理論は解明されていませんが、もはや実験を間違ったものとして退ける事はできない状況だと判断しています。「ミズーリ大学の固体核融合に関するセミナー」で書いたダンカン博士の態度も証左の一つです。
とはいえ、「論文は多数書かれています」と言われても中々信じられません。どれだけの論文が書かれているのか、私のような素人にとってはサッパリ分からないのが実情でした。そんな折、たまたま「Jed Rothwell」さんという方のブログへの書き込みを見て、具体的な件数や過去の業績の一端に触れる事ができましたので、以下に整理してみます。
「kikulog」という大阪大学の菊池誠博士が開設しておられるブログがあります。ここで荒田博士の公開実験が(否定的に)取り上げられたエントリに対し、Jed Rothwell氏がコメント欄で色々な情報を示してくれています。
Jed氏のコメントの内容を勝手に要約すると以下のように述べられています。
- 常温核融合の論文は数千本出版されている。荒田博士の実験結果も10年前から報告され、アメリカ、イタリアなどで追試して確認されている。
- Fleischmann-Pons効果を追試した世界的レベルの研究所は200以上ある。これについての論文は2500本ほどあり、論文審査のある学術専門誌に出たのは1000本ほど。
なお、ここで出てくる論文は以下で参照できるようです(素人にはハードルが高過ぎるサイトではありますが)。
http://www.lenr-canr.org/index.html
上記の1000本ほどの論文についてはコメント欄での問答をそのまま引用させていただきます。
■引用開始「また、論文審査のある学術専門誌にでた1000本ほどの論文も肯定的なものなのでしょうか? 」私のデータベースには、学術専門誌の論文の数は1600ぐらあります。肯定的な実験結果を報告するのは、900か1000ぐらいです。(ある程度成功したとか、SN比の低いあいまいな結果もあります。私が疑問に思うのもあります。)あとの600本は理論的なものや、結果が認められなかった報告です。常温核融合に実験を分析して、問題を指摘しようとする否定的な論文はMorrison、Jones、ERAB調査グループなど、約10本あります。(その論文はでたらめだと思いますが、LENR-CANRでお読みになった自分で判断してください。)北アメリカ(カナダと米国)の研究グループが学術専門誌に出した論文を調査して、まったく効果が認められなかったと報告した論文の数と研究員の数をリストにまとめました:■引用終了
また、「追試した世界的レベルの研究所は200以上」という件についてJed氏が以下のように補足してくれています。
(J>がJed氏の発言、Q>が質問者の発言です)
■引用開始J>Fleischmann-Pons効果(常温核融合)を追試した世界的レベルの研究所は200以上あります。J>これに付きの論文は2500本あって、論文審査のある学術専門誌に出たのは1000本ほどあります。Q>教えてほしいのですが、肯定的な結果の追試が200以上あるのでしょうか?J>その200というのは、E. Stormsの本の表1に記載された実験の数です。J>Stormsが分析して要約データをまとめたわけです。表1に載ってない実験もいくらかあります。J>「実験」と言っても、一回だけ行ったわけではありません。たとえば、J>TAMU(テキサス州立大学)では一回につき、セルを100本同時に試して、そのテストを数年にわたって毎月繰り返しました。■引用終了
この中に出てくるE.Stormsの本とは、おそらく以下だと思います。PDFに全文が掲載されているようですので、興味のある方は是非ご覧ください。
Abstract - More than 190 studies reporting evidence for the "cold fusion" effect are evaluated. New work has answered criticisms by eliminating many of the suggested errors. Evidence for large and reproducible energy generation as well as various nuclear reactions, in addition to fusion, from a variety of environments and methods is accumulating. The field can no longer be dismissed by invoking obvious error or prosaic explanations.
この論文は1996年時点で判明している成果を概観するのに便利です。「TABLE 2」には、様々な過剰熱発生のケースが分類してあります。荒田博士の実験で重水(D2O)とPd(パラジウム)を使った電気分解方式が有名になりましたが、他にも色々な方式がある事が分かります。以下、論文からの引用です(文字化けがあると思うので気になる人は元論文PDFを参照してください)。巻末には11ページに及ぶ参考文献リストがあります。
■引用開始TABLE 2Methods Claimed to Produce Excess Energy(Reported useful temperatures listed)Electrolysis of D2O-based electrolyte using a Pd cathode (20-100 "C).Electrolysis of H2O-based electrolyte using a Ni cathode (20-100 "C).Electrolysis of KCl-LiCl, D electrolyte using a Pd anode (450 "C).Various solid compounds in D, (700-800 "C).Gas discharge using Pd electrodes in hydrogen.Gas discharge using Pd electrodes in deuterium (<>
Gas reaction with Ni under special conditions (400 "C).Enhanced reaction involving D2O and various metals using an acoustic field.Enhanced reaction in H2O using microbubble formation (20-100 "C).Reaction of finely divided palladium with pressurized deuterium gas.■引用終了
如何でしょうか?
私は専門家ではないので、論文の中身の妥当性判断はできません。しかし、これだけの多様な研究者が多様な研究成果を20年に渡って積み重ねてきている事実は重いと考えます。これが私が固体核融合を「科学」と信じる理由です。
もし固体核融合を似非科学と断じるのであれば、これらの論文で示された実験のどこが間違っているのか、あるいは、実験結果を認めるとして従来の理論だけで説明できるのかを具体的に指摘すべきだと思います。
以上
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