2009年9月23日水曜日

D+D→He反応は起こる筈がない?

荒田吉明博士の「常温核融合公開実験」は、重水素(D)を入力とし、過剰熱とHe(ヘリウム)を出力とするクリーンな(中性子やγ線の出ない)核融合現象を再現させたものです。荒田博士の実験系の工夫によって再現性は非常に高まったのですが、この現象を裏付ける理論については確定的なものがなく、研究者の間で議論が続いています。どこかで読んだのですが、研究者の数だけ理論(候補)がある状況のようです。こんな楽しそうな学問領域が物理の世界に残っていたとは思いもよりませんでした。

さて、素人は、上記の現象を見て、ついつい
D+D → He+熱エネルギー
という反応式によって表される核反応が起こっていると思いがちです。しかし、「重水素(D)を入力とし、過剰熱とHe(ヘリウム)を出力とする」という主張と、「上記の反応式で核反応が起こっている」という主張の間には大きな差があります。後者の主張の方がずっと強いのです。
勉強した所によると、従来の物理学の知見から、上記のような反応式は自由空間の中では成り立ちません。物理学のプロである固体核融合の研究者もそんな事は先刻ご承知で、上記以外の様々な反応式の仮説が提示され議論されている状況です。上記の反応式を主張するとしても、金属格子の中という特殊な条件下で如何にこの反応式が成り立ち得るかを示すのに腐心しているのだと理解しています。これが、上述の「研究者の数だけ理論(候補)がある」状況の意味です。要は、現象の再現性は高まったが、まだその仕組みは解明されていないという事です。

もちろん、これは悪いことではありません。科学はみんなこうやって発展してきたのだと思います。こんな楽しそうな学問領域が物理の世界に残っていたとは思いもよりませんでした(繰り返し・・・笑)。

反応式の仮説の代表例としては、高橋亮人博士のTSC理論があります。これについては以下の解説文が分かりやすかったので引用させていただきます。

常温核融合は本当だった! その13
■引用開始
そこで、日本のエース・高橋亮人先生(大阪大学名誉教授)は、常温核融合は特異な過程をもつ核反応であるという考えから多体核融合の理論を展開されています。それは、重陽子(d)4個と電子4個が立方体の頂点を交互に占める配置をとった場合、一挙に凝集が起こりBe8を経て、2個のHe4が発生すると主張する理論。TSC理論(正四面体凝集理論)と呼ばれCold Fusioの分野で世界的に知られています。先生は「Cold FusionではDD核融合は起こっていない、多体核融合こそが起こっている」と主張されています。JCF9でもそう述べられていた。
■引用終了
これ以外にも多数の仮説が提示されて議論の俎上に乗っているようです。物理学を知っている人が「D+D→He」が起こっていると聞くと、「それはあり得ない。物理の常識を知らない似非物理だろう」と判断されてしまう恐れがあるので、説明する時には要注意です。

以上で本エントリの趣旨は終わりです。以下、「D+D → He+熱エネルギー」という反応式は成り立たない理由を述べます。素人理解なので間違っていたら易しく(笑)ご指摘いただけると助かります。ここでの知識は主として高橋亮人博士の書かれた「常温核融合2008―凝集核融合のメカニズム」から得ました。以降、「常温核融合2008」とは、この本の事を指します。

「常温核融合2008」のP58「図1-29 既知の重水素関連核融合反応と反応生成物、エネルギー(Q値)」には以下の反応式が示されています。

(a) D + D → p + t + 4.02MeV : 50%
(b) D + D → n + He3 + 3.25MeV : 50%
(c) D + D → He4 + γ + 23.8MeV : 0.00001%

つまり、「D+D→He+熱エネルギー」に相当する(c)は確率的に「起こらない」に近い反応なのです。
逆に、(c)が起こったとすると、その10万倍くらい(a)や(b)が起こり、結果として大量の中性子が観測される筈です。しかし、実験では中性子は観測されておらず、(b)は起こっていないと考えられます。したがって、(c)も起こっていない筈です。また、もう一つの論点としてガンマ線の発生があります。(c)が起こったとすると、ガンマ線も出る筈なのですが、それも観測されていません。

1989年当時の研究では、上記の「物理の常識」から考えて中性子が出ている筈との想定で中性子探しが行われたのですが、うまく行きませんでした。当時は、核反応が起こっているなら人体に有害な放射線が出ているリスクが高いと研究者も考えていて、実験担当者は結構心配していたようです(この辺の状況は「常温核融合スキャンダル」に詳しく書かれています)。本当に中性子やガンマ線がバンバン出ていたら、人的被害が出てたいへんな事になっていた筈ですね。

また、高橋亮人博士が、D+D→Heという反応式についてどう考えておられるかを示す部分を「常温核融合2008」から引用させていただきます。
なお、上付き数字や丸付き数字はうまく表現できないので、4HeをHe4等と書き換えました。

■P55~56から引用
また、「D+D→He4+格子エネルギー(Lattice-Energy)(23.8MeV)」は、核物理的に可能性なし」である。
<略>
たとえば、「D+D→He4+γ(gamma)(23.8MeV)」とか「Cs133+4D→Pr141+Q(50.49MeV)」のようなアインシュタイン(Einstein)の質量とエネルギー保存を表わす関係のみから導かれた、反応式は発熱反応であるので、化学的には常に起こるように見える。
しかし、(1)「初期状態 相互作用」における「クーロン力」の克服の程度と「強い相互作用」の度合い、(2)「中間 複合核」の状態、(3)「終状態 相互作用」における反応の分岐比--を定量的に見積もらない限り、反応が意味をもって実現する事が言えていない。
■P56~57から引用
フライシュマン(Fleischmann)、シュヴィンガー(Schwinger)に始まって、プレパラータ(Preparata)、ハーゲルシュタイン、チャブ=チャブなどの理論家や、マックーブル、荒田、デニーノ(deNinno)、ビオランテ、ストームズ(Storms)などの名だたる実験家がこぞって信奉してきたのが、「D+D→He4+格子エネルギー(Lattice-Energy)(23.8MeV)」の仮説である。
荒田らの実験条件からも、核物理的な「終状態 相互作用」からもこの仮説の論拠は破綻している。
また、凝集系内の重水素「D」は束縛されているために粒子束の桁が大きく減少するので、「DD」反応の出力が0.1W/cc以上になることはありえない。しかし、人々はなおこの仮説に固執していて、米エネルギー省(DoD)に酷評されることになった。
実験結果は、「He-4」を灰とするクリーンな核融合を示唆している。「軽水素系」では、この現象は起こらないので、「重水素が関連した何らかの凝集系での核反応」であるはずである。
既知の「重水素関連核融合反応」は、図1-29の反応が知られていて、「中性子」を発生せずに「He-4」が主生成物となる反応はない。核物理的には、いったいどんな反応チャンネルがあり得るのだろうか。
■P59から引用
「二体の重水素反応、2D(d-d)反応では、He-4が主生成物--灰となることは期待できない。」
現在までに集積された核物理的実験データと理論から得られた終状態相互作用のデータを見る限り、このコメントは覆りそうにない。
このことは、「過剰熱」と相関した「He-4」の発生を説明するには、「凝集系独特の新しい核反応」を“発明”しなければならない、ということである。
以上

0 件のコメント:

コメントを投稿