2014年12月31日水曜日

ナノ銀担持骨炭によるヨウ素の除去実験

ナノ銀による放射線低減実験は、主として阿部宣男博士と岩崎信博士によって複数回実施報告が出されています(実験報告へのインデックスはここにあります)。今回紹介するのは、2011年に東京都水道局によって実施されたヨウ素の除去実験です。レポートを見るまでは、「放射性ヨウ素」を対象とした放射線の低減実験だと誤解していたのですが、実態は、非放射性ヨウ素の除去(吸着)実験でした。そして、ナノ銀担持牛骨炭が高いヨウ素除去性能を持っているとの結果が得られていました(但し、ナノ銀や牛骨炭の役割は分かっていません)。

今回、関係者から東京都水道局の出したレポート(以下)を見せていただいたので、私見を含めてまとめてみます。


1. 目的

「ナノ純銀粒子を担持した牛骨炭や御影石のヨウ素の除去性について検証した」とあります。
放射性ヨウ素の放射線の減衰を検証しようとしたのではなく、水道の原水からのヨウ素の「除去性」を検証目的として挙げている点に要注意です。水道局の関心がそこにあったのは当然だと思うのですが、私の期待とは少し違っていました。

2. 予備実験結果

このレポートには、「予備実験」と「本実験」の2つの実験結果が書かれています。
まず予備実験では、浄水場の原水に放射性ヨウ素を加えてヨウ素が減るかどうかを、高周波誘導結合型プラズマ質量分析計で確かめています。ここで、「放射性ヨウ素」を使っているのは以下の2つの理由によると考えます。
  • 実験の観点がヨウ素の除去性の評価にある。
  • 放射性ヨウ素は放射性物質の研究施設でなければ扱えない。
結果は以下の図に示されています。説明文を引用します。
御影石では約15%、牛骨炭では約60%の除去率であった。ナノ純銀粒子を担持させても、その支持体によって除去性が異なることが分かった。牛骨炭で除去率が高かった原因として、フッ素の除去方法である骨炭法と同様に、主にイオン交換により除去されると推測される。

どうやら、ナノ銀の関与は不明ながら、「ナノ銀担持牛骨炭」のヨウ素除去性能が高いようです。ちなみに、「骨炭法」を検索してみると、例えば、「生物系産業廃棄物からの活性炭製造と水処理への応用」といった報告が出てきます。骨炭がフッ素除去に効果があると述べられています。参考までに要旨を引用します。
現在,骨炭の国内での工業的な使用は製糖工場における糖液の脱色に限られているが,海外ではフッ素沈着病の予防法として飲料水中のフッ素除去に使われ始めている.一方,国内では半導体工場等から排出されるフッ素の問題が起きており,今後早急な除去対策が必要であると考えられる.従来のカルシウム沈殿法では新しい法規制値を満足させることが難しいため,フルオロアパタイト (FAP) 生成法に準じた方法として骨炭を選び,作製条件およびフッ素除去に関する検討を行った.
その結果,同一作製条件であっても骨の部位によっては大きな比表面積を持つものが得られ,特に肋骨から作製した骨炭は市販骨炭と同等のフッ素吸着能力を示した.

3. 本実験結果

本実験は、「流水中」での除去性確認を目的としたようです。ここでも、「放射性ヨウ素を定量した」とあります。結局、放射線低減効果については検証されなかったようです。

結果は以下の図に示されています。説明文を引用します。
牛骨炭で約50%、粒状活性炭新炭で約60%の除去率であり、その他の材料の除去率は低かった。牛骨炭は、主にイオン交換によりヨウ素を除去すると考えられることから、イオン交換能がなくなった後は再生処理(1%苛性ソーダ溶液を通水するなど)が効果を持つと見られる。

ここで最も効果の高かった「新炭」が何者なのかを知りたくなります。しかし、報告書本文に「粒状活性炭新炭」という記載がある他は組成についての記述がありません。阿部宣男博士に当時の事情を伺ったところ、詳細は不明ながら、当時水道局が持っていた濾過用の活性炭にナノ銀担持御影石やナノ銀担持牛骨炭を全部混ぜた「全部入り」濾過材だという話を聞いたとのことでした。そうだとすると、ヨウ素除去の主役はナノ銀担持骨炭だった可能性もあります。

4. まとめ

この実験結果について以下のように言えるでしょう。
  • 放射線低減の実験であると期待していたが、そうではなかった(放射性ヨウ素を使っておらず、放射線測定もしていない)。
  • 原水からのヨウ素の除去性を確認するための実験であり、効果を確認できた素材があった。
  • ナノ銀の関与は不明だが、ナノ銀担持牛骨炭はヨウ素の高い除去性を持つ素材のようだ。
放射線低減について分からなかったのは残念ですが、ナノ銀担持牛骨炭がヨウ素除去に役立つと分かったのは大きな成果ではないかと思います。今後、ナノ銀の関与や放射線への効果も含めて、この素材が原発事故時の飲料水の浄化に役立つかどうか検証が進むことを期待します。

以上

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