2016年1月31日日曜日

硝酸トリウム溶液中のナノ金粒子へのレーザー照射による壊変促進実験


このShafeev博士が2009年にSimakin博士と共著で硝酸トリウム溶液中のナノ金粒子にレーザーを照射することで核反応を促進したとする実験結果を論文にしていました。
Initiation of nuclear reactions under laser irradiation of Au nanoparticles in the presence of Thorium aqua-ionsA.V. Simakin, G.A. Shafeev
(Submitted on 23 Jun 2009) 
Initiation of nuclear reactions in Thorium nuclei is experimentally studied under laser exposure of Au nanoparticles suspended in the aqueous solution of Th(NO3)4 (232Th). It is found that the reaction pathway depends in which water, either H2O or D2O, the laser exposure is carried out. Saturation of the liquids (H2O or D2O) with gaseous H2 or D2, respectively, enhances the nuclear reactions under laser exposure allowing their excitation at peak intensity as low as 1010 W/cm2. Enhanced gamma-activity of the probe is observed after the end of laser exposure for several hours. 
Comments: Reported at E-MRS 2009 conference, June 8-12, Strasbourg, France
論文は以下にPDFで公開されています。
http://arxiv.org/ftp/arxiv/papers/0906/0906.4268.pdf

Wikipadiaによるとトリウムは以下のような特徴を持っています。
天然に存在する同位体は放射性のトリウム232一種類だけで、安定同位体はない。しかし、半減期が140.5億年と非常に長く、地殻中にもかなり豊富(10 ppm前後)に存在する。水に溶けにくく海水中には少ない。 トリウム系列の親核種であり、放射能を持つ(アルファ崩壊)ことは、1898年にマリ・キュリーらによって発見された。
論文には複数の測定データが載っています。Table 1とTable 2は、重水中でレーザ照射をした前後の各放射性物質の濃度を示しています。表の左の方はガンマ線検出器によるカウント、右の方は原子吸光分析装置(AAS)による濃度測定結果のようです。


この結果を見ると、Cs137等の放射性物質の濃度は照射後に下がっていることが分かります。Table 1では、より正確と思われるAASの測定でも、トリウム濃度が下がり、逆にバリウム濃度が上昇しています。不思議ですが、Table 2ではAASで測定したトリウム濃度が若干上昇しています。ちなみに、どの程度の異常さなのかを統計的に検定しておいて欲しいところですね。

Table 3には、重水ではなく軽水(H2O)の溶液を使った結果が示されています。これまた、AASの結果を見ると、トリウムの濃度が減少しています。一方、他の核種からのガンマ線はどれも増加しています。トリウムの核分裂が促進されたようにも見えます。


Fig 2aでは、レーザ照射前後でアクチニウム232が増えたことが示されています。ただ、アクチニウム232はトリウム系列に属している訳でもなく、Wikipediaによると半減期119秒なので、この元素が検出されるのは異常なことだと言えるでしょう。


さらに、Fig 2bには、ガンマ線の低エネルギー領域の輻射の増加が示されています。これもまた放射性物質の増加があった事を示しているように見えます。


以上のようなデータから、メカニズムは不明ながら、ナノ金粒子に対するレーザ照射が放射性元素の何らかの核変換を引き起こしたと考えられているようです。ちなみに、この論文では、特に、表面プラズモン共鳴の周波数を意識しているようには思えませんでした。

核廃棄物の処理に革新をもたらす可能性を秘めた研究だと思います。今後の展開に期待したいと思います。

以上

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