この中に放射性物質の半減期が短縮された(崩壊が加速された)例として、「束縛状態ベータ崩壊(Bound-state beta decay)」が挙げられています。この実験については日本語の文献にも記載されていたので引用します。
「エキゾチック核の寿命と質量の精密測定」から引用。
通常原子核は中性で電子に覆われているため、ベータ崩壊では崩壊電子とニュートリノは核外へ放出される。ところが軌道電子をすべて剥ぎ取った状態では、崩壊電子にパウリ禁止律が働かず、電子はK殻にとどまりニュートリノのみが核外へ放出されるというエキゾチックな崩壊モード(束縛状態ベータ崩壊)が起こる。価数個分の電子の静止質量の変化に起因して崩壊のQ値が変わるため位相空間因子も変化し、例えば、中性な163Dy原子(安定に存在する)の半減期が 50日へと変化したり、宇宙時計として有名な187Reでは 5×10^9 年から9桁も速くなったりすることが報告されており、星の中心部に於ける熱いプラズマで起こる元素合成の理解に大きな影響を与えている。「4.重イオン蓄積リングを用いた不安定核構造の研究」から引用。
重イオン蓄積リングとは、加速した重イオンを入射し、一定の速さ(運動エネルギー)で閉曲線上に回し貯める装置のことです。ドイツのGSI(重イオン研究所)には世界で唯一不安定核分離装置と直結した重イオン蓄積リングESRがあります。ESRでは不安定核重イオンを相対論的エネルギーで入射、蓄積することができます。
相対論的エネルギーでは原子は周りの電子を剥ぎ取られてほとんど裸の原子核の状態になります。これにより通常の原子では見られない現象の研究が可能なのです。
我々のグループでは束縛状態β崩壊の研究を行っています。
これは、電子が完全に剥ぎ取られた原子核でのβ崩壊は通常の原子と異なり、ある確立でβ崩壊で放出される電子が直接娘核の原子内に取り込まれる、というものです。ある不安定核ではこの効果が大きく効き、その崩壊寿命が著しく変わる場合があります。特にこの効果は、銀河の寿命を調べる、宇宙時計に用いる不安定核(187Re等)では非常に重要になります。
上記では、163Dy(ジスプロシウム163)と187Re(レニウム187)の例が挙がっています。ジスプロシウム163は安定した原子で崩壊しない筈なのですが、全ての電子を剥ぎ取った状態では半減期50日(より正確には47日?)で崩壊するとのこと。もう一つのレニウム187の半減期はなんと約412億年という長期なのですが、この状態では半減期は約33年になったとのこと(Observation of Bound-State β− Decay of Fully Ionized 187Re: 187Re—187Os Cosmochronometry, Phys. Rev. Lett. 77, 5190 (1996).)。
この実験の事を知って気になるのがナノ銀による放射線低減実験との関連です。どういう仕組みなのか良く分かりませんが、ナノ銀粒子は銀イオンを放出すると主張されているようです。銀はイオン化傾向が低い(イオンになりにくい)原子なので、セシウムのようなイオン化傾向の高い(イオンになりやすい)原子に出会うと、セシウムから電子を奪って中性の銀に戻るのではないかと思います。さすがに、この反応で「全ての電子を剥ぎ取った状態」にはならないでしょうが、セシウム等の放射性物質をイオン化する事で半減期を短縮するような事が起こったりはしないでしょうか? 素人仮説に過ぎませんが、これまでのナノ銀による放射線低減実験でも水を付加する事で現象が進んだりしているのも、イオン化に関係あるのでは、と気になっています。今後の解明が進むのを期待したいと思います。
参考:
ジスプロシウムhttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%82%B9%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%A6%E3%83%A0
パウリの排他原理(パウリ禁止律)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%82%A6%E3%83%AA%E3%81%AE%E6%8E%92%E4%BB%96%E5%8E%9F%E7%90%86
レニウム
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%83%8B%E3%82%A6%E3%83%A0
以上
半減期が短縮されるとしたら、その分、単位時間あたりの放射線量が多くなり、人体にとってはかえって危険なことになるのではないでしょうか? 放出されているのは、どんな放射線なのでしょうか?
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