非常に厄介な放射性汚染源であるトリチウムについて、原田武夫氏が新たな核変換技術を開発して効果を検証していると主張されています。
続・トリチウム汚染水が消える日 イノヴェーションを阻むもの - 原田武夫国際戦略情報研究所公式ブログ
http://blog.goo.ne.jp/shiome/e/bbf99d89b409ddc8350840f74d8d07ee
こうした動きは大事だと思うので応援したい所なのですが、残念ながら実験の設計やデータが公開されていないので、どのような内容なのかがサッパリ分かりません。ビジネス面でノウハウを公開したくないのであれば、核変換の仕掛けの部分はブラックボックスで構わないので、是非、実験結果を公開していただきたいと思います。
さて、最近以下の特許が話題になりました(赤字は引用者による)。トリチウムや金属元素の放射性同位体の半減期を加速する方式を申請していたからです。
特許 US20140192941 - Method of acceleration of nuclear transmutation of isotopes by carrying out exothermic reactions
http://www.google.com/patents/US20140192941
要約書
Methods for acceleration of nuclear transmutation of tritium and radioactive isotopes of metals, and decontamination of metals contaminated with radioactive isotopes by destroying radioactive isotopes to a required level of residual radioactive inventory in metals with simultaneous release of thermal energy via stimulating accelerated transmutation with the half-life parameters describing kinetics of radioactive isotope destruction much shorter than their generally accepted half-life. The stimulus is applied to radioactive metals by placing them into a chamber, exposing them to gaseous substances of the group of hydrogen, deuterium, tritium, or a mixture of these isotopes in a molecular hydrogen form for said gaseous substances to be absorbed by the metals, heating the metals to a temperature of at least 200° C. and maintaining at the said temperature. Exothermic reactions of non-radioactive metals with deuterium, tritium, or a mixture of these isotopes in a molecular hydrogen form release a significant amount of energy.
この特許の出願者であるLev Bernstein氏は、国際常温核融合学会(ISCMNS)の出している論文誌JCMNSのVol.11にトリチウムの核変換を扱った論文を書いています。
Destruction of Radioactivity by Stimulation of Nuclear Transmutation Reactions
L.A. Bernstein
BLL Inc., 1725B South Hayes Street, Arlington, Virginia 22202, USA
J. Condensed Matter Nucl. Sci. 11 (2013) 8–14
http://lenr-canr.org/acrobat/BiberianJPjcondensedj.pdf#page=13
Lev Bernstein氏の名前では、Lenr-canr.orgのライブラリ検索でこの論文しか引っかからないので、おそらく常温核融合研究界の中では知られていない人ではないかと想像します。
おそらく、上記の特許はこの論文での知見がベースになっていると思うので、ここでは論文の内容を見てみます。「1. Introduction」では、放射性廃棄物を削減するために、放射性の減少促進は重要との認識を示しており、そのための研究だと分かります。
「3. Review of Experimental Studies on Detritiation of Tritium-contaminated Samples」では、トリチウムの除染に的を絞って、これまでの研究をレビューしています。以前、Jed氏から紹介された、Reifenschweller氏の研究も引用されています。また、日本の鳥養祐二(とりかいゆうじ)氏の研究も引用されています。
鳥養さんは、日本語の資料を色々と発表されていたので、勉強になりました。例えば、以下の資料では、ステンレスやら鉄やら銅やらの各種金属材料がトリチウムで汚染されたと想定して、それを加熱することで、どこまで除染(この場合はトリチウムの「排出」に相当)できるかを試しているようです。
特定領域研究 核融合トリチウム C班ミーティング
トリチウムに汚染された材料の除染法の研究・開発
( 富山大学 ) 鳥養 祐二
平成 20年8月4-5日
http://tritium.nifs.ac.jp/project/13/pdf/11.pdf
Bernstein氏の論文では、鳥養氏は放出されたトリチウム量を計測しているが、金属内に残されたトリチウム量を測ったら、合計は元のトリチウム量に等しくなるだろうか? という疑問を投げかけています。要するに、Bernstein氏は、単にトリチウムが金属から排出されただけでなく、トリチウムの合計量が減っている可能性を示唆しています。
「4. Present Detritiation Experiments, Results and Discussion」では、自分達の行った実験結果を述べています。ここでは、元々金属にあったトリチウム量(A)と、残ったトリチウム量(B)と放出されたトリチウム量(C)の和との比率を見ています。
Therefore, the difference between an initial inventory of tritium in a metal sample (A) and a sum of the residual inventory of tritium in the metal sample (B) and collected activity removed from the metal sample (C) was determined. This difference determined as percentage of A as [1-(B+C)/A]× 100% is referred to hereafter as disbalance.
例えば、以下のような結果で、本来0%になる筈の収支が崩れている事が示されています。
Tritium disbalances at temperatures of 200℃ and 500℃ and optimal gas exchange rates determined at 800℃ for each metal specified (the latter figures are shown in the parentheses) are:
・Stainless steel – 78.8% and 74.9%
・Cu – 45.8% and 87.5%
・W – 39.1% and 85.3%
・Be – 45.7% and 94.6%
鳥養さんの研究では、金属に吸蔵されたトリチウムは、表面部分に特にたくさん蓄積される事も示されており、これが加熱された時に他の物質へと核種変換されているのかもしれません。放射性物質の本当の除染に向けて重要な実験結果だと思います。
以上