2016年1月2日土曜日

ナノ銀による抗セシウム加工技術の話

今回も常温核融合との関係は良く分からない話題です。

2015年3月に開催された第3回国連防災世界会議に、関西学生発イノベーション創出協議会が、ナノ銀を繊維に織り込むことで、抗セシウム性を持たせた衣類をデモ展示していました。この方々のホームページは、 http://www.world-protection.jp/index.html にあります。



抗セシウム性がどういうものか気になったので少し調べてみました。まず、抗セシウム加工を施した繊維は「エイブリーチ」としてダイワタオル共同組合から商品化されているようで、以下にカタログが掲載されています。

エイブリーチのカタログ
このカタログには、京都大学原子炉実験所が測定協力していると記されています。探してみると、以下のレポートが見つかりました。商品名は明記されていませんが、ダイワタオルの方々も著者となっているので、論文中の「抗菌を目的に銀ナノ粒子を付着させた」資料Eがエイブリーチ相当のタオルだと考えました。



このレポートでは以下の5種類の綿100%タオルについてセシウムによる汚染度と洗濯による除去効果を測定しています。

  • タオルA: 企業の PR などに使われている薄手のタオル
  • タオルB: 家庭用のごく一般的なタオル
  • タオルC: バスタオルなどに使用されている厚手のもの
  • タオルD: タオル B にポリエステルポリマーやエチレングリコールモノ-ノルマル-ブチルエーテルなどを含む薬剤(プリシェード SR-2,一方社油脂工業株式会社)で防汚処理を施したもの
  • タオルE: 抗菌を目的に銀ナノ粒子を付着させたもの

興味深いのは、湿式汚染実験の結果です。以下のように記載されています(赤字は引用者による)。これが「抗セシウム」性を示す結果だと思われます。
湿式汚染実験における各種類のタオルにおける付着量を Table 3 に示した。タオル A,B,C で,それぞれ,28.9,48.7,及び 57.2 Bq/sample の付着量であり,これは負荷した土壌中 137Cs 量の,それぞれ,3.9,6.5,及び7.6%/sample であった。タオル地が厚くなるほど,137Csによる付着量は増加するが,タオル重量当たりでみると,普通の厚さのタオルは,薄いタオルや厚いタオルに比べ有意に単位重量当たりの付着量が多かった(p = 0.04)。 
乾式で汚染させた時と同様,防汚処理による効果は認められなかったが,銀ナノ粒子による防菌加工されたタオルではセシウムによる付着量は通常のタオルに比べ約半分程度であった

たしかに、Table 3では、資料Eの「Before Washing(洗濯前)」のセシウム付着量が減っているように見えます。しかし、この機序は以下のように不明とされています(赤字は引用者による)。
今回の実験では,市販の防汚加工剤(プリシェードSR-2)による防汚加工はとくに汚染量の低減に有効ではなかった。この防汚加工は,繊維の親水性,親油性を少なくすることにより,汗や食品等の付着を低減する処理である。今回の結果は,セシウムで汚染された土壌粒子によるタオル生地の汚染は,このような一般的な防汚加工が対象としている繊維の汚染とは異なる機序によっていることを示唆している。銀ナノ粒子による処理は,繊維や塗料,プラスチックなどに銀の微粒子を付着・含有させ,導電性や抗菌性を付与するものである。タオルや服地にシルクプロテインと合わせて処理し,抗菌性と光沢を向上させるためなどに使用されている。今回,このような処理によりセシウムで汚染された土壌によるタオル地の汚染,特に湿式での汚染が低減された。その機序については不明であるが,銀ナノ粒子の処理により繊維表面の電荷状態などが変化し,それによって土壌微粒子の付着が低減されたものと推察している
このブログの読者の方々には、ここで述べられた「推察」以外の仮説が思い浮かぶでしょうが、上記の実験結果だけでは、これ以上の追究は無理でしょう。真相に迫るためには様々な実験を適切に関連付けて見ていく必要がありそうですね。

以上


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