2011年9月19日月曜日

E-Catのセルフサステインモード(Heat After Death)の実験結果

NyTeknik誌のMats Lewan氏による実験レポートを見てみました。
http://www.nyteknik.se/incoming/article3264365.ece/BINARY/Report+E-cat+test+September+7+%28pdf%29
レポートによると、実験に使ったE-Catの新モデルは、50cm×60cm×30cmの大きさと約80kgの重さがあり、以前のモデルよりだいぶ巨大になっています(その分、1台あたりの出力も増えています)。
このE-Catに水を注入すると、中の常温核融合反応部分で熱せられ、熱水と蒸気として外に排出されます。
今回の実験は、非常に限られた計測装置と時間の中で行われており、残念ながら科学の厳密な検証に向けたものではありません。例えば、温度は計測されていますが、発生熱量を正確に測定するための機器が用意されていません。しかし、E-Catの「セルフサステインモード」がどのようなものであるのかを知る上では貴重だと思います。

実験レポートにも温度変化の図がついていますが、最初からの温度の立上りが知りたかったので、温度データのExcelシートをダウンロードして、自分でグラフを書いてみました。主なイベントを記入したものが以下です。
18:59からヒーター電力を徐々に上げるに従って、出力温度が上昇して行きます。そして、温度が133度Cになった22:35にヒーター電力を切り、最終的に23:10にポンプを停止して水素ガスの圧力を下げます。この22:35から23:10の期間が、入力エネルギー無し(ヒーターオフ)の状態で出力(熱)を発生し続ける「セルフサステインモード」での動作です。
セルフサステインモードの期間には出力温度の低下が見られますが、23:10に水素ガスの圧力を下げた後の急激な温度低下に比べると低下は小さいものであり、熱発生が続いていると推測されます。

レポートの評価では、出力熱量は、少なくとも3.8kWで、多ければ7.8kW程度と見積もられています。入力電力量である2.6kWに比べて利得が小さくなっていますが、出力熱量の計測は非常に粗いものなので、定量的な妥当性を論じても意味はないでしょう。セルフサステインモード時は、入力電力はゼロだったので、出力(3.8kW~7.8kW)はそのまま利得となります。

また、セルフサステインモードについては以下のような記述があります。最悪ケースでは、30分のセルフサステインモード運転の後、10分のフルパワー入力運転が必要ではないかとのこと。これでも、フルパワー入力時間は40分中の10分で済むので、効率は4倍に上がる事になります。こういう運用が、E-Catでセルフサステインモードを使うという意味だったのですね。
Supposedly this Ecat needs 10 minutes of full power electric input after every 30 minutes of self sustaining operation, for stability reasons, in the worst case.
ちなみに、この「セルフサステインモード」は、常温核融合現象の中でも非常に面白い現象で、素人ながら常温核融合現象の本質に迫る手がかりだと思います。蛍光灯のように電力を加えると光るのではなく、ロウソクのように一旦「着火」するとエネルギーを入力しなくても反応が持続するのです。セルフサステインモードは、「死後の熱:heat after death」とも呼ばれています。これは昔から知られていて、例えば、以下のような記録が残っています。



http://www.lenr-canr.org/acrobat/RothwellJmiraiokizu.pdf

「未来を築く常温核融合」ジェト・ロスウェル著 P12から引用
今まで最も劇的な実例は水野の報告実験で 100 グラムのパラジウムの陰極を用いて、一ヶ月以上数ワットの過剰熱を認めて、合せて 12 メガジュールを発生した。一ヶ月すぎたある朝、非常に熱くなっていて、とうとう 100 ワット以上を出力していた。セルは触れないぐらい熱かったので、水野は危険を感じて、電源を切った。切った後も発熱が続いた。この現象は他の研究所でも観測されたことがあって「死後の熱」と呼ばれている。水野はセルを電源から取り外して水がいっぱい入っているバケツに沈ませた。次の朝にはバケツの水が全部蒸発していたので、再び満たした。また蒸発してしまい、再度バケツを水で満たした。11 日間に合計 37.5 リットル蒸発してからやっと室温に冷めた。
これはおそらく水野忠彦博士が記述しておられる以下の体験のことだと思われます。

http://www.lenr-canr.org/acrobat/MizunoTjyouonkaku.pdf
「常温核融合プロジェクト」水野忠彦著 P44「1991 年3 月 水野の閉鎖セルから出た異常発熱」からの引用(読みやすさのために引用者が一部改行、赤色を追加した)
そうして4月22日の朝、電気分解を止めて後はパラジウム中に入っていた重水素の放出を待った。 普通、電気分解をストップするとすぐに重水素が放出され、系内の酸素と結びついて熱を出すが、 大体10 時間でその反応が終わることもわかっていた。用いたパラジウムは100g位でほぼ1モル当 量と考えてよい。これに飽和まで水素が入っても0.5モル当量だから出てくる総熱量は151Kジュールが最大である。すると、時間で割って4.2 ワットとなる。しかし実際には重水素の放出量はこの半分であり、2ワットと計算されるのである。この値は電解に要したエネルギーの10 分の1 位なので温度上昇は2℃程度にしかならない。だが、セルの温度は重水素の放出が収まった後でも75℃には下がらずに90℃を示していたのである。このことに気がついたのは4月25日の朝になって再び記録計を見た時である。驚いたことに温度が100℃を示している。しかもゆっくりと上昇していっている。この時は朝の9時すぎで、秋本も中性子の検定を横で行っていた。 
「秋本さん、温度が上がっていっているよ。ちょっと変だ。設定より30℃も高い。目盛りがずれているのだろうか。中性子はどう。」
すると秋本が
「温度が上がっていっているって。ちょっと見せてみて。本当だ、確かに上がっている。」と記録紙 を見ながら言った。
「中性子をチックしてみよう。」と言いながらマルチチャンネルアナライザーのメモリーを切り換えた。
「いや、特別大きな変化はないよ。相変わらず2.45MeVのピークは見えるけどね。格別増えてはいない。どれも同じにみえる。」とスペクトルをみながらいった。
水野は本当に温度が高いのか気になって、手前にある、中性子減速プラスチックのブロックをいくつか取り除いた。電源の電圧、電流ともに安定しており、電解前の20V、3.0Aと一定で、これも1ヶ月の間全く変わっていなかったのである。もちろんこれは安定電源を使っているのであるから当たり前のことである。ヒーターにはステンレスで被覆したシースヒーターと言うものを用いており、この抵抗値が6.67 オームとなっているのであるから、1ヶ月間60ワットであったのである。すると75 度を示していなければならない。しかも電解を止めて3日もたっているのだから、重水素も大体出てしまっているはずである。ただこの時に直接わかるデータは温度と圧力、それとヒーター、電解の電流、電圧である。パラジウム内の重水素濃度は計算しないとわからないのであるが、大体の値は圧力、温度から見当がつくのである。 
ちょっとセルの表面に手を伸ばしてみた。
「かなり熱い。70 度なんてものではない。明らかに100 度以上ある。手で触れるようなものではないよ。」と水野。
「何が起こっているんだ。」秋本が叫ぶ。
「わからない。でも重水素もほとんど出てないし、再結合による熱じゃない。ヒーター電源も60ワットのままだ。」水野
「もしかしたらこれが常温核融合というものじゃないか。」秋本が興奮気味につぶやく。
「まさか。電解も止めているのに。3日もたっているんだ。こんな話は常温核融合でも聞いたことがない。いずれにせよヒーターも切った方が良さそうだ。このままほおっておけばどこまで温度が上がるかわからない。何かあったらこの研究も続けられなくなってしまう。それにこの実験の初めに起きていた爆発も気になるし、あの時の圧力は優に100 気圧をこえていた。それも何百回も起こっていた。事故でも起きたら大変だ。」とうわずりながら、水野は急に不安をおぼえた。
「いや、これは良い機会じゃないか。今まで二年以上も実験をやっていて、やっと熱らしい熱が出てきたんだ、このまましばらく様子を見よう。」と秋本が冷静にいう。
「わかった。でももしここで何か起こるとまずいからセルは移そう。そこで温度を見てみよう。」と水野は何とか結論を出した。 
そして一度自分の部屋に戻り、雑巾やタオルを持って来て、それでセルをぐるぐる巻きにした。金属部分に触れないように気をつけて地下の実験室から3 階の自分の研究室まで運び、大きな厚い金属パネルの後ろに置いた。こうしておけば何か起こってもパネルで囲まれているので危険はないはずだ。設計耐圧は250気圧、フッ素樹脂は別としてステンレス部分は500℃以上になっても壊れないはずだ。もちろん上部には安全弁が付いていて、100 気圧以上になれば自動的にガスが放出されるはずだ。ただし、急激な爆発が起こった場合には耐えられるかどうかは自信がなかった。長い年月、高温高圧下の水素吸収を研究していたので、どのような容器設計が安全か、経験上からわかっているつもりではあったが、このような予想もつかない現象には、今までの知識から対応できない恐ろしさを感じていたのが事実だ。 
このようにして容器を鉄の台の上に置いたのであるが、次の日になってもいっこうに温度は下がる様子はなかった。この日は金曜日であり、連休が近かった。このままでは不安であったので、思い切って冷却することにした。大きな12lのポリエチレン製のバケツに水を半分、約8l位入れセルを漬けたのである。この時の温度はセル上部につけている熱電対の出力を見ると4.0mV になっており、温度に換算すると相変わらず100℃のままであった。すなわちヒーターを切り、電解を止めているのに熱出力としては120 ワットを維持しているのである。すると電解を止めた後の総熱量は1.2×10**7ジュールという熱になる。このようにして水の中にセルを漬けると温度は急に下がっていき、1 時間程で60℃までになっていった。この状態にしておけば温度は下がっていくものと考え、そのままにしておいたのである。次の日の朝、気になって研究室に来てバケツを見て驚いた。八分目位入っていた水がほとんど蒸発して無くなっており、再び温度は80℃前後で変化しているのである。さすがにこうなってくると異常を感じないわけにはいかなくなった。8lもの水を全て蒸発させる熱量は約2×10**7ジュール、燃焼熱や相変態等では説明がつかない熱量である。大体それらの熱は大きく見積もっても10**5ジュールのオーダーであるから、すでに二桁も多くなるのである。そこで、より大きな20リットルのバケツに入れセルが完全に浸かるまで水を入れた。そのようにして3 日後の4 月30 日に再び来てみるとまたもや水が完全に蒸発しており、セルの温度は50℃で変化をしているのである。再度水を15 リットルほど入れ、そのままにして熱電対を記録計に接続し、5月の1、2 日とそれぞれ水を5 リットルづつ足した。そして、連休が終わった5月7日の朝には水は半分ほど残っており、温度も35℃にまで低下し、変動もなくなっていたのである。この時は正確な熱データーを取ることは初めから考えていなかったので、どの程度の熱が出たのかは水の蒸発量などから推論する以外にはない。 
水の蒸発熱は全て合わせると4 月30 日以後には8.2×10**7ジュールとなる。これまでの総発熱量を合わせると、少なくとも1.14×10**8ジュールというとてつもない量の発熱があったことになるのである。これを電解やヒーターに使ったエネルギー2.6×10**8ジュールと比較すると40%となり、電解だけに使ったエネルギーはそれまでにほとんど全て熱として生じているので、この計算は非常に低く見積もった値である。
このような異常な発熱を見たことで、水野はさすがに予想も付かない自然界の奥深さに今さらながら驚かされ、思い知らされたのであった。そして、自分の常識からのがれられないこともあきれてしまった。弱いながらも中性子を自分で確認し、また数が合わないまでもトリチウムさえも検出していながら、熱についてはまさかという気持ちが心の底にあったために、測定の準備も、それが起きたときの対応も全く出来なかったのである。このいつ起こるかわからない熱についてはこの後も何度となく経験するのである。
以上

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