2009年11月20日金曜日

米国国防情報局が常温核融合を評価

vortex-lに投稿されたJed Rothwell氏の以下の記事で知りました。

http://www.mail-archive.com/vortex-l@eskimo.com/msg35851.html

以下のURLに米国の「Defense Intelligence Agency(アメリカ国防情報局)」が発行したレポートのPDFが掲載されています。例によって括弧内は私の勝手な和訳です。

http://lenr-canr.org/acrobat/BarnhartBtechnology.pdf
Defense Analysis Report
DIA-08-0911-003 13 November 2009
Technology Forecast: Worldwide Research on Low-Energy Nuclear Reactions Increasing and Gaining Acceptance
(技術予測:低エネルギー核反応の世界的な研究の進展と認知の高まり)

冒頭の本文を引用します。国防省の情報局が常温固体核融合を肯定的に評価していると思われます。認知の高まりを示す好例だと思います。

■引用開始
Scientists worldwide have been quietly investigating low-energy nuclear reactions (LENR) for the past 20 years. Researchers in this controversial field are now claiming paradigm-shifting results, including generation of large amounts of excess heat, nuclear activity and transmutation of elements. Although no current theory exists to explain all the reported phenomena, some scientists now believe quantum-level nuclear reactions may be occurring. DIA assesses with high confidence that if LENR can produce nuclear-origin energy at room temperatures, this disruptive technology could revolutionize energy production and storage, since nuclear reactions release millions of times more energy per unit mass than do any known chemical fuel.
■引用終了

■勝手な和訳開始
過去20年間にわたり静かに低エネルギー核反応(LENR)を調査している科学者達が世界中にいます。この論議を呼んだ分野の研究者は、パラダイムシフトをもたらす結果~多量の過剰熱、核反応の証拠、および核変換など~を主張しています。報告された全ての現象を説明できる理論は存在していませんが、何人かの科学者は量子レベルの核反応が起こっているかもしれないと信じています。DIAは強い確信を持って以下のように評価します: LENRが室温で核起源エネルギーを発生させられるなら、この破壊的な技術はエネルギー生産と格納を変革するでしょう。なぜなら、核反応の単位質量あたりの発生熱量は、既知のどんな化学燃料よりも数百万倍も大きいからです。
■勝手な和訳終了

以上

2009年11月8日日曜日

水野博士のICCF-15の発表

前回の記事「INFINITE ENERGY誌のICCF-15レポート」で紹介した「Scientific Overview of ICCF15」に水野博士の発表の概要が載っていましたので紹介します。

■引用開始
Mizuno (Hokkaido University) reported a confirmation of his earlier observations that heavy oil heated (T > about 500°C) at high pressure (> 60 atmospheres) with hydrogen gas in the presence of a metal catalyst produced heat. Heat generation of up to 100 W was observed for several hours. The experiment is reproducible, but the heat production is not stable. Both X- and gamma radiations were observed, with a “weak” but “reasonably significant correlation between heat generation and radiation emission.” Three reasons were given why the observed heat cannot be chemical in origin. At high temperatures, hydrogenation reactions are endothermic, there are virtually no chemical fuels (oxidizers included) in the cell and the excess heats are too large to explain chemically.
■引用終了

以下、上記の勝手な和訳です。

■和訳開始
水野(北海道大学)は金属触媒があるとき高圧(60気圧以上)の水素ガスと加熱された(約500℃以上)重油が熱を発生させたという彼の以前の観測の確認を報告しました。最大100Wの熱発生が数時間観測されました。実験は再現可能ですが、発生する熱量は安定していません。X線とガンマ線の両方が観測されました。「弱い」とはいえ「熱発生と放射線放出に十分有意な相関関係」が認められる。観測された熱の起源が化学反応である筈がない3つの理由があげられました。高温では水素化反応は吸熱します。セルの中にどんな化学燃料(酸化剤を含ふ)も実質的にありません。過剰熱は化学的に説明できないくらい大きいです。
■和訳終了

ICCF-15の講演資料が公開されていますが、水野博士の発表資料は以下です。

http://iccf15.frascati.enea.it/ICCF15-PRESENTATIONS/S7_O8_Mizuno.pdf

上記の記事の中で重油(heavy oil)と書かれているのは、「フェナントレン」の事です。素人として興味があるのは、水野博士がどういう着想からフェナントレンと水素という組合せに行き着いたのかという点です。他の研究者が主にパラジウムやニッケルといった遷移金属を中心に研究を進めている中、どこをどう捻るとフェナントレンが候補として出てくるのか、非常に面白いですね。

以上

INFINITE ENERGY誌のICCF-15レポート

vortex-lというメーリングリストに投稿されたJed氏のメールで「INFINITE ENERGY」マガジンのページにローマで開催されたICCF-15(第15回凝集系核科学国際会議)のレポート(PDF)が掲載されている事を知りました。

http://www.mail-archive.com/vortex-l@eskimo.com/msg35660.html
■引用開始
[Vo]:Infinite Energy covers ICCF-15
Jed Rothwell
Wed, 04 Nov 2009 11:25:04 -0800

This is great stuff! Here is a message from Christy Frazier:
Dave Nagel's fantastic coverage of the scientific program for ICCF15 is at:
http://www.infinite-energy.com/images/pdfs/nageliccf15.pdf

Marianne Macy's broad coverage of the general program and news from the session is at:
http://www.infinite-energy.com/images/pdfs/macyiccf15.pdf
. . .
She says some photos will follow.

- Jed
■引用終了
中身は読めていません。「nageliccf15.pdf」は題名が「Scientific Overview of ICCF15」となっており、ICCF15での発表の学術的な内容を概観できるようです。「macyiccf15.pdf」の方は題名が「ICCF15 in Rome, Italy」となっており、会議や出席者の様子を伝えているようです。

ちなみに後者には、次のICCF16の日程が暫定的に2011年2月6日~11日になったと書いてあります。場所はインドのChennai(チェンナイ)との事です。

■引用開始
ICCF16 is tentatively scheduled to be held from February 6 through 11, 2011 in the southern India city of Chennai (formerly known as Madras) at the GRT Convention Center.
The conference has rotated between three continents (North America, Europe and Asia) since its inception in 1990. This is the first time that the conference will take place in India.
■引用終了

また、「INFINITE ENERGY」の以下のページには参加者の写真が多数掲載されています。

http://www.infinite-energy.com/iemagazine/issue88/iccf15.html
Issue 88
November/December 2009
Infinite Energy Magazine
ICCF15 in Rome, Italy

以上

2009年11月4日水曜日

酸水素ガスと水の振動撹拌と常温核融合の関係?

以下の記事を見て「酸水素ガス」という面白い物質の事を知りました。

http://warren.jugem.jp/?eid=1200
日経産業新聞が取り上げた「酸水素ガス」は、トンデモ科学の臭いがする!
2009.08.30 Sunday

この報道記事しか見ていない段階でトンデモ科学とするのは時期尚早だと思いますが、私も記事以上の事は調べていないので、何とも言えません。

ところが、少し検索していたら、価格.comの掲示板の記事から更に面白い事が分かりました。発明者は、振動撹拌と常温核融合現象に関係があると考えているようなのです。以下、説明します。


上記の記事の中で、次の特許が参照されています。

http://kantan.nexp.jp/kouhou.html?kh=A/2009/67/2009028667&kp=pdf
特開2009-028667 水の改質方法
出願日:2007年7月27日
出願人:日本テクノ株式会社
発明者:有冨正憲、大政龍晋

この特許は、非常に単純に言うと「水を200時間かき混ぜたら、Mg、Zn、Ca、Al、Cu、Na、K、Seといった元素が出現します」という驚くべき事を主張しています。特許内容から引用させていただきます(赤字は引用者によります)。
■引用開始
【0006】
本発明者らは、振動数が100Hzを超えるような高周波振動、たとえば100~200Hzといった高周波振動を振動羽根に与えて振動攪拌をおこなうと、100Hz未満、とくに40~60Hzといったような低周波振動を振動羽根に与えて振動攪拌をおこなった場合に較べて、Mg、Zn、Ca、Al、Cu、Na、K、Seなどの含有量の増大割合が極めて大きいことを見出したのである。
とくに本発明による「水に対しての100Hz以上の高周波振動」を長時間、たとえば100時間以上行うと、後記の実験結果から明らかなとおり、少なくともMg、Zn、Ca、Al、Cu、Na、K、Seについては明らかにその含有量が顕著に増大しているという驚くべき事実を確認しているのである。この現象は一種の原子転換が起こっているのではないかとも考えられる
この現象から推測すると、超音波、例えば20~30KHzの超音波も、その利用の仕方によっては、本発明と同様の現象がおこる可能性がある。少なくとも高周波振動攪拌と超音波の併用は、本発明で起こっている現象を一層促進する可能性がある。
■引用終了
発明者は、常温核融合との関係を強く意識していて、ケルブランの生体内原子転換説を持ち出しています。
■引用開始
【0007】
従来から、原子転換という現象は、原子核が核分裂および核融合を起こす場合や原子核に粒子が衝突しておこる核変換によって発生することはよく知られている。
一方、フランスの生命科学者であり、ノーベル生理学・医学賞の受賞候補者にノミネートされたことのあるルイ・ケルブラン博士は、ニワトリに長い間カルシウムを全く与えず、硬い殻の卵を産めない状態にしておいた後、アルミニウムとカリウムからなる雲母を餌として与えたところ、硬い殻(カルシウム入り)の卵を産むようになったという事実に基づき、生体内で原子の転換が行われているとの説を発表している(C・L・ケルブラン著、桜沢如一訳、1962年12月10日、日本CI協会発行、「生体による原子転換」参照、ケルブランの紹介をしている本としては平成7年6月15日廣済堂出版発行、深野一幸著、「地球を救う21世紀の超技術」第212~217頁参照)。これはケルブランの
常温原子転換説と言われるものである。そして、ケルブランの著書には、約三千件にも及ぶ常温、常圧の原子変換の具体的事例が人、海水生息生物、植物、種々のバクテリアについてみられる、と述べられている。そして、その後少数の関係学者などにより自然界の水の原子転換の測定や生体内の原子転換の実証を試みたが、転換データは得られたもののその転換率は非常に微量であり、生体内という特殊環境下のため、その再現性が困難であったことなどから、今日までケルブランの生体内原子転換説は世界的学問として認知されていない。
【0008】
このような環境下において、馬渕幸作発明の特開2004-74074号公報では、密閉空間に原水を封入し、該原水中に高温高圧の蒸気を噴出させて、その蒸気の噴出力で原水を撹拌しつつ、閉鎖空間内を高圧(15~20atm)に維持した状態で所要時間原水を撹拌処理することにより原水中の成分の原子転換を介してミネラル成分を多量に含有したミネラル成分含有水を生成する方法を提案している。この明細書の実施例によれば、原水に較べてナトリウム濃度が約130%、カルシウム濃度が約50%増加したと記載している。しかし、この方法は、高温高圧というコストのかかる条件が不可欠であり、原子の増加率もそれほど高くはない。
また、九州大学大学院の梨子木久恒らは、特開2004-122045号公報において、筒状容器よりなる微細気泡発生器を水、その他の被処理液内に浸漬し、被処理液に好ましくは空気などの不活性気体を加えて微細気泡発生器内において高速旋回せしめ、その時に生ずる負圧とこの負圧によって生ずるキャビテーション気泡の圧壊時に微局所的に生ずる超高圧高温の反応を用いて前記被処理液の含有元素比率を変化させる方法と装置を提案している。
【0009】
微量のエネルギーによる元素転換は、ケルブランによる「生物学的元素転換」手段のほか、多くの研究者によって追求されてきたが、本発明は、「微量エネルギー」による元素転換が可能であり、また再現性があることを立証したものである
この微量のエネルギーによる元素転換は、現代物理学の常温核融合の概念に近いものであるが、常温核融合は、非常に制約された条件下で特定の物質に生ずるものとされているが、この微量のエネルギーによる元素転換は、今回の試験データでも分かるように自然界に存在している比較的軽い元素が、また生命維持にとって重要な元素が、相互に元素転換している事実を再現したものとも言える。
前述の先行文献などを参考にすると、本発明においては下記の反応が起こっている可能性が考えられる。
7N+ + 5B- →12Mg
12Mg + 8O →20Ca
20Ca + 8O + 1H→29Cu
29Cu + 1H →30Zn
9F++ 21H →11Na
また、前記反応のような元素同士の融合とは反対に、反応する元素同士の分裂、すなわち原子番号および原子量の減産的な元素の転換現象も起こっていると推定される。
12Mg →11Na + 1H
19K →11Na + 8O
処理水中の他の元素においても上記と同様の元素変換がおこり、各元素濃度が増減しているものと推定される。
微量エネルギーによる元素転換は、前述のようにケルブランによって「生物学的元素転換」とともに追求されてきたが、この発明において、微量エネルギーによる元素転換が確実に発生し、それが再現性のあるものであることが証明されたのである。
この微量エネルギーによる元素転換は、現代の物理学における常温核融合に近い現象であるが、従来の常温核融合は非常に制約された条件下で特定の元素にのみ生ずるものとされていた。ところが本発明における現象は、表1のデータからも明らかなとおり、自然界におけるありふれた軽量元素で、かつ生物の生命維持にとつて重要な元素が、相互に元素転換しているということであって、これはまさに驚くべきことである。
■引用終了
実施例として、実験の結果が載っていますので更に引用します。
■引用開始
【実施例】
【0062】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は、これにより何ら限定されるものではない。
【0063】
実施例1
(1)超純水の製造
水道水をカチオンH型イオン交換樹脂塔→脱酸素塔→アニオンOH型イオン交換樹脂塔に順次通すことにより純水を得た。
さらにこの純水を逆浸透膜で処理して、超純水とした。
(2)処理装置
実施例に用いた処理装置は、図23~27に示す。なお、下記装置において、水と接触する恐れのある部分および水と接触する部分は、すべて樹脂コーティング処理、本実施例ではエポキシ樹脂コーティング処理が施されている。
使用している高周波振動撹拌装置について、
(i)振動モータとして、ユーラステクノ株式会社発売、商品名ハイフレユーラスKHE2-2Tを用いた。ハイフレユーラスKHE2-2Tは、3相、200V、50サイクルの所では150Hzまで、60サイクルの所では180Hzまで可能、2種、モータ回転数:50サイクルの所では9000r/min、60サイクルの所では10800r/min、振動力2kN、出力0.15kW、全負荷電流:50サイクルの所では0.90A、60サイクルの所では0.55A、の性能を持つものである。
(ii)インバーター:富士電機株式会社のFRENIC 5000 HIIS
(iii)振動羽根:振動棒(直径12mmのSUS304製)2本にステンレスSUS304製の振動羽根3枚を図24および25に示すように固定したものであり、羽根のサイズは縦105mm、横100mm、厚さ0.5mmである。
(iv)密閉収納槽:ステンレスSUS304製のもので、その内面に2mm厚のエポキシ樹脂をライニングしたものであり、内容積は、17.7リットルである。
(v)密閉手段
(イ)密閉収納槽とその蓋との接合部分の密閉は、耐熱ゴムパッキング(厚さ3mm)を用いた。
(ロ)振動撹拌機の振動棒と蓋との間の密閉は図26に示す。図に示すとおり蓋における振動棒挿入部分にSUS304製のシリンダーをはめこんで蓋に溶接し、振動棒とシリンダーの内壁の間にはリング状のパッキングを入れた。パッキングは、上下がポリプロピレン製のキャップであり、中央がNBR製のゴムパッキングとした。
(3)超純水の処理方法
超純水15.0リットルを図23~27に示す密閉収納槽に充填、密閉し、インバーターを用いて振動モーターを135Hzで振動させ、常温で200時間振動撹拌を行った
(4)データの採取
東京工業大学の原子炉工学研究所所長であって、発明者の1人でもある有冨正憲教授が東京工業大学の誘導結合プラズマ質量分析計(ICP質量分析計)を用いて、平成18年12月20日に測定したものである。
【0064】
表1における超純水原料水の項のデーターは、製造後の超純水を測定したときのデーターであり、「超純水原料水200時間振動攪拌水」の項のデーターは図23~27の装置を用い、常温、200時間、135Hzで振動撹拌処理をした後の水を測定したときのデーターである。なお、表1中の濃度を示す数値の単位はppbである
■引用終了
実験結果は以下のようにまとまっています。はっきりと、MgやZn等の濃度が高まっていると読み取れます。実験内容が(撹拌装置に難しい技術が用いられているとしても)「水を掻き回し続けるだけ」というシンプルなものなので、混入や測定誤差といった要因も考えにくいように思います。実に驚くべき結果なのですが、誰かこの追試や理論構築に挑戦している人はいないのでしょうか? 再現するとしたら、たいへんな発見だと思うのですが・・・

■引用開始(表1)

■引用終了
以上

2009年11月1日日曜日

小島英夫博士の「科学する心と常温核融合現象」

「常温核融合」を科学する」の著者である小島英夫博士が「理大 科学フォーラム」2008.5 pp.30-37(2008)に執筆された「科学する心と常温核融合現象」という記事がPDFとして常温核融合研究所のWebサイトに登録されています。文献をスキャンして作ったPDFらしく、残念ながらGoogle等では内容を検索できません。

この記事は、常温核融合現象の全体像を示すと共に、複雑系の現象であると考える根拠が示されています。常温核融合現象は、なぜ定量的再現性がないのか等の疑問に対する考察として非常に示唆に富む文章だと思います。素人には難しい部分もありますが、常温核融合の事を知りたいと思った時にまず目を通すべき文献の一つだと思います。

この記事をテキスト化する事で、引用や検索がしやすくなると考え、本論の大部分にあたる「2.常温核融合現象(CFP)とは」から「3.常温核融合現象の科学」の11ページをテキストとして以下に引用させていただきました。興味を持たれた方は、是非、原文を見ていただければと思います。
なお、図と図の説明部分は引用しておりません(図を省略した部分には★印で注記しました)。また、指数の表記のように、私の知るHTML技では表現が難しいものはX**Yのような表記に勝手に書き直しました。正確に知りたい方も、是非、原文を参照いただければと思います。

■引用開始

2.常温核融合現象(CFP)とは

 1989年3月の末から数ヶ月の間、新聞や科学雑誌の紙面を賑わした「常温核融合(Cold Fusion Phenomenon, CFP)」発見のニュースを覚えている読者も多いことでしょう。しかし、その現象が辿ったその後の不幸な運命は知られていないと思われます。それは、CFPが世界の学会で市民権を得ることが出来なかったことの結果です。この17年間の研究の推移と当初「常温核融合」と呼ばれた事象を含む常温核融合現象(CFP)が、いかに興味のある現象で、多大の科学的・技術的可能性を秘めているかを説明しましょう。
 工業社会に不可欠なエネルギー源としての原子力に、核分裂と核融合反応を用いる二つの方式があること、核分裂反応を用いた原子力の平和利用は、放射性廃棄物の処理という未解決の難問を抱えているにもかかわらず、その利用が推進されざるを得ない状況にあることは周知の事実です。他方で、核融合反応を用いた原子力の平和利用は、膨大な予算を使った50年余の真剣な努力にもかかわらず、各国での成功の可能性が危ぶまれ、国際共同計画ITERという形で一本化して、これから50年をかけてその実現可能性を明らかにしようという、遠大な計画に結実しました。2005年、実験装置本体はEU主体に運営され、日本も主要な一翼を担うことで各国が合意に達しました。
 近代文明がエネルギー源の枯渇という危機に直面していることが真剣に議論されていた1989年の3月に、「常温核融合」という名で発見が報じられた常温核融合現象(CFP、Cold Fusion Phenomenon)は、エネルギー源としての可能な応用が予想されたために、かえって不幸なスタートを切ることになりました。その予想にからむ思惑は、その後の研究の展開に不幸な烙印を押してしまいました。現在もその影響は払拭されていません。科学とは無縁の、応用にからんだそのような夾雑物を取り除いて、CFPに含まれる諸事象を科学的に考察すると、そこには核物理学と固体物理学の中間の未知の領域に関係した新しい科学が含まれていることが分かってきました。

2.1 実験装置
 1989年3月に、フライシュマンとポンズは莫大な過剰熱を主とする、常温核融合現象に属するいくつかの現象を観測しました。
 それらの現象を説明するために、彼らは「d-d融合反応の起る確率が、PdDx合金中では真空中でに比べてとてつもなく(10**50倍程度に)大きくなる」という彼らの予想(フライシュマンの仮定)に基づいた解釈をつけて、結果を発表しました。殆ど同時に発表されたジョーンズたちの中性子のエネルギー・スペクトルの測定も、同じ仮定に基づいて計画され、解釈されたのです。彼らの用いた実験装置は、図1に示した模式図の(a)電解型です。その後、これらの三種の型の装置(図1)を使って多くの実験がなされ、多様な実験データが得られています。

(★図1を省略。原文をご覧ください★)

2.2 常温核融合現象の実験結果
 1989年から18年間に得られたCFPの実験データを、表1に要約しました。この表に示された各種の事象は、「フライシュマンの仮定(固体内でd-d融合反応が起る)がCFPの基本的反応ではない」ことを示しています。最も単純な事実は、重水素を含まない系(軽水系)でもCFPが起っていることです。

表1: 母体固体、動作核、実験法、核反応の直接証拠と間接証拠、測定量(物理量)の性質(蓄積型と散逸型)。過剰熱をQ、核変換をNTと略記。質量数4以下の核である重陽子d、トリトンt、ヘリウム3 3He、ヘリウム4 4Heの発生はそれぞれの核種の生成として、その他の、質量数が5以上の核種が生成される核変換(Nuclear Transmutation, NT)と区別している。

母体固体
Pd, Ti, Ni, KCl+LiCl, ReBa2Cu3O7, NaxWO3, KD2PO4, TGS, SrCeaYbNBcOd
エージェント
n,d,p,6-3Li,10-3B,39-19K,85-37Rb,87-37Rb,(イオン・ビーム)
実験法
電気分解、気体放電、気体接触、(高圧放電、イオン・ビーム照射)
直接証拠
ガンマ線γ(ε)、中性子エネルギー・スペクトルn(ε)、NT産物の空間分布NT(r)、核崩壊定数の短縮、核分裂しきい値の減少
間接証拠
過剰熱Q、中性子数N、系でのトリチウム量、核変換NT(NTd,NTf,NTa)、X線スペクトルX(ε)
蓄積型測定量
NT核、系内の変換核量、密閉系内のトリチウム量とヘリウム量
散逸型測定量
過剰熱Q、中性子数、ヘリウム量、発生粒子のエネルギー・スペクトル

 この表で、母体金属は水素同位体(軽水素Hあるいは重水素D)を多量に吸蔵(吸収し、安定に維持)する性質を持つ金属/化合物で、代表的なものはfccおよびhcp型遷移金属、および陽子伝導体と呼ばれる化合物です。エージェントは、母体金属に加えたときCFPを起こす条件を実現する原子・粒子で、重水素D、軽水素H(軽水素でもCFPが起る!)、Li-6,K-39,Rb-86などの原子、および熱中性子nがあります。
 熱中性子の役割は単純でなく、確立していません。これは中性子自体が、単純には測定にかからない素粒子であるためでもあって、CFPの捉え方によって、研究者の間でもその役割の評価には意見が分かれています。しかし、熱中性子(とそれより少しエネルギーの高いエピ熱中性子)が存在しないところではCFPが起こらず、熱中性子を人為的に照射するとCFPが増幅されることから、「熱中性子の存在はCFPの必要条件であると考えなければならない」というのが筆者の意見です。
 この表は、「母体金属とエージェントからなる一種の複雑系で、核反応が起ると考えないと説明しようのない多様な事象が観測されている」ことを示します。その事象の全体をまとめて常温核融合現象(CFP)と呼ぶのですが、それらの事象は二つの観点から分類できます。一つは核反応との関係から、もう一つは測定との関係からです。

1) 核反応の直接および間接証拠
 核反応との関係では、その事象に現れる物理量が核反応に直接関係するか、間接的に関係するかで、前者を核反応の直接証拠、後者を間接証拠と呼んでいます。
 新しい核種の生成やガンマ線の発生は、核反応を直接的に示しており、新しい核種の空間的分布と時間的分布は、直接証拠の中でももっとも価値の高い情報を与えます。中性子のエネルギー・スペクトルも直接証拠と考えられます。
 化学反応では説明できないほど大きな熱量の発生は、間接証拠と言えます。発生する中性子の総量も間接証拠に入れてよいでしょう。X線の発生は間接証拠です。

2) 蓄積型と散逸型物理量
 測定との関係では、事象に関係した物理量が蓄積型か散逸型かによって、測定精度に大きな違いが出てきます。当然、蓄積型の物理量の測定精度の方が高いと言って良いでしょう。
 蓄積型の物理量には、核変換によって生じた原子核(核種)と密閉系でのトリチウムやヘリウム4の総量が属します。
 散逸型の物理量には、系内で発生した熱量、中性子量などが属します。一般に、散逸型の物理量の測定精度を上げるのは蓄積型に比べて難しいものです。
 たとえば、核変換によって生じた核種の同定とその空間分布の測定は、散逸型の物理量である過剰熱やヘリウム量を正確に測定することに比べて容易です。
 表には書き入れてありませんが、核変換生成物の空間分布などから、CFPの核反応は試料の表面(あるいは境界面)で起ると考えられことは、重要な特徴です。

2.3 実験結果の解釈
 フライシュマンの仮定が正しいかどうかは、いろいろな点で興味のある問題ですが、その科学的可能性を検討しましょう。
 フライシュマンの仮定が正しいとすると、1フェムトメートル(10**-15m)程度の作用距離をもつ核力の作用に、10ナノメートル(10**-9m)程度の距離に存在する荷電粒子が影響を与えることになります(6桁の違いを日常生活空間で想像してみてください)。多くの識者が指摘しているように、このような現象が起ったとすると、現代物理学の基礎原理が改変されなければならないことになります。
 次に、社会的・技術的な影響は、主にエネルギー源に関係したものです。殆ど無限に存在する重水素がエネルギー源として容易に利用できることになりますから、エネルギー利用に一大革命をもたらすことになります(海水中の重水の濃度は0.015%)。莫大なエネルギー(とそれに付随した利益)が簡単に手に入るだろうという予想は、科学には無縁の秘密主義と特許申請競争をもたらしました。
 この二つの要因が、個人的(研究者による)および社会的(諸組織による)なCFPの評価を左右し、常温核融合現象研究を大きな社会問題にしました。
 時代風潮も絡んで、CFPの研究者とその所属する組織は、フライシュマンの仮定が正しいことに大きなメリットを感じとり、その正しさを予測する傾向が強められました。逆に、プラズマ核融合の研究者たちが条件反射的に感じたことは「寝耳に水」の有りえない現象ということで、強い拒絶反応を示しました。
 科学的には、CFPの特性である次の二つの要因が、主な論争点であると考えていいでしょう。一つは実験結果の定量的再現性で、もう一つは現象の理論的可能性です。
 再現性に関しては、不安定核の崩壊過程や高エネルギー粒子を用いたd-d反応でさえ確率法則に従うのです。したがって、複雑系でおこる、核反応を含むCFPには単純な定量的再現性が存在しないことは明らかです。CFPでは確率的あるいは定性的再現性しかないと考えるのが常識だと思えるのですが、定量的再現性の有無だけが論じられてきたのが実情です。
 理論的可能性に関しては、フライシュマンの仮定に捉われた論争が、表1に示した多様な実験事実から離れた、不毛な議論であることは明らかでしょう。この仮定が実験結果と矛盾することは最初の実験データがすでに明らかにしていたことであり、その後得られた実験データが示すCFPの多様な事象は、この仮定とはかけ離れているのです。ですから、科学すること本来の立場からは、全体のデータを総括的に説明する理論的枠組みを模索することが要求されます。
 CFP研究の歴史の教訓は、「世俗的な関心に惑わされてしまうと、科学者といえども科学する心を失ってしまう」ということです。科学する心が、科学研究においてだけでなく、日常生活においても大切なことを訴える意味で、CFPの発展期のエピソードは他山の石とすべき好例なのです。

3. 常温核融合現象の科学

 表1に示したCFPの諸事象の特性は、非常に複雑です。とくに、重水素を含まない系(軽水素)でもCFPが起ることに注意してください。全体が複雑系で起る一つの現象の諸相であると考えるか、それぞれ違った原因で起るいくつかの互いに無関係な事象群と考えるかによって、CFPにたいする科学的態度は違ってきます。われわれは、前者の立場に立って、CFPを統一的に説明する理論を探求することにします。

3.1 モデル--現象論的アプローチ
 このように複雑な現象を科学するときのアプローチの仕方の一つに、現象論あるいはモデル理論があります。実験事実に基づいたいくつかの仮定を骨組みとし、一つの可変パラメータを含むモデル(TNCFモデル)が考案されました[参考文献2-5]。このモデルの基本は、荷電粒子間の直接の核反応を考える代わりに、固体中に捕獲された準安定的な熱中性子を仮定し、それが核反応を媒介すると考えたことです。
 このモデルを使うと、多様な実験事実が定性的に、あるいは半定量的に説明できます[2,3]。特に、いくつかの事象が同時に観測された10例くらいの場合に、それらのデータの間の量的関係が一つのパラメータを決めることによって説明できることが分かりました。これは、モデルの有効性を示していると考えることができます。
 そこで次の段階として、この優れたモデルで仮定している、「固体中に捕獲された準安定的に存在する中性子」の性質を量子力学的に探求することにしました[4,5]。
 そのような視点でCFPに関係する原子核と固体の性質を調べると、そこには次のような未知の領域が残っていて、CFPに深く関係していることが分かります。

3.2 核物理学と固体物理学の未開拓分野

1)核物理学、
まず、原子核のエネルギー準位の中で、中性子の束縛エネルギーが非常に小さい励起準位(evaporation levels)の性質には、未知の領域が広がっています。とくに、個別の核種についての研究は未開拓の状態にあります。次に、中性子数Nが陽子数Zを大幅に超える超多中性子核(exotic nuclei)が見つかり始めました。その例には、10-2He, 11-3Li, 11-4Be, 32-11Naなどがあり、中性子がはみ出した分布neutron haloができています。(図2)

(★図2を省略。原文をご覧ください★)

2)固体物理学、
 他方、水素化遷移金属にも未知の領域が広がっています。その不思議な性質の一つには、結晶型による物性の違いがあります。1)bcc(体心立法型)とfcc(面心立法型)およびhcp(六方稠密型)遷移金属とでは吸蔵された水素の物性(拡散、振動)が全く違います。1)では陽子pあるいは重陽子dの波動関数は局在していますが(図3)、2)では局在していません。他方、CFPは2)のNi,Ti,Pdでは起りますが、1)のV,Nbでは起りません。陽子pと重陽子dの波動関数が遷移金属によって違う特徴を持つことは、その物性とCFPとに深く関係しているようです。
 当面の課題は、原子核と固体のこれらの性質を使って、CFPの諸事象を量子力学的に説明することです。その第一段階は最近のいくつかの論文に結実して、近著[4、5]にまとめられています。そこでは、実験データを整理して、CFPが複雑系の特徴を持つことも示しました。

(★図3を省略。原文をご覧ください★)

3.3 CFPの起るメカニズム-理論的予測

 水素化遷移金属における素粒子と原子核との量子力学的状態は、次のようにまとめられます: (1)fccとhcp型の水素吸蔵性遷移金属の中では、陽子(重陽子)波動関数が拡がっていて、格子核(格子点にある原子核)の波動関数との重なりがある。(2)吸蔵された水素同位体を介して格子核間に核力相互作用(超核力相互作用)が生ずる、(3)超核力相互作用の結果、格子核の励起状態にある中性子が中性子バンド状態(固体内に拡がった波動関数をもつ)に移行する、(4)バンド状態の中性子が表面で高密度の中性子媒質(CF媒質)を形成する、(5)CF媒質中の中性子が格子核および表面の異種原子核と相互作用してCFPを引き起こす。
 複雑系の量子力学的問題を正確に解くことは困難なので、以上の筋書きは定性的にしか基礎付けられていませんが、可能性は示せたと思っています。

3.4 複雑系の現象としてのCFP

 20世紀末の20年間に、これまでの自然科学観を一変させる、革命的な発見がありました。カオスを含む複雑系の科学の発展です。ガリレオやニュートンに始まる近代自然科学の成果は、対象を“解くことのできる現象”に限定して発展してきたのですが、手付かずの状態に取り残されてきた現象-三体問題から乱流まで-が、非線形ダイナミックスの対象として考察され、その特徴が調べられ始めました。自然の豊穣さが明らかにされ、力学的な複雑系から生命を含む超複雑な系までが、一つの視点で捉えられる可能性が示されたと言えるでしょう。
 常温核融合現象(CFP)を複雑系の視点で捉えることによって、今まで「再現性がない」としてネガティブに見られてきた現象が、逆に複雑系の特徴を現す現象としてポジティブに見えてきたのです。その例が、次の三つの法則です。
 1) 核変換生成核の安定性効果
 2) 過剰熱発生の逆ベキ法則性
 3) 過剰熱発生の分岐構造

(★図4を省略。原文をご覧ください★)

1) 安定性効果。CFPにおける核変換で、新しい原子核(原子番号Z)が生ずる頻度P(Z)(∝測定数Nob(Z))が、宇宙に存在する原子核(原子番号Z)の量H(Z)と正の相関を持つことが分かりました。[4,5] 原子核の安定度が高いほど宇宙に存在する量は多いと考えられますから、この法則性は「CFPでの核変換が恒星で起る核変換に似た性質のものである」ことを示唆していると考えられます。(図4)

2) 逆ベキ法則は、複雑系での反応で起ることが知られている法則で、その一例は地震のエネルギーEとその地震の起る頻度P(E)の関係(グーテンベルク・リヒターの法則)です:
  P(E) = AE**-1.7  (A:定数)
筆者の解析では、CFPにおける単位時間当たりの過剰熱Pの生ずる頻度N(P)は
  N(P) = A/P**b
で表わされ、この式のベキ指数bは1~2となります。(図5、6)

(★図5を省略。原文をご覧ください★)
(★図6を省略。原文をご覧ください★)

3) 分岐構造は、単純な非線形ダイナミックス系で詳しく調べられている構造で、系のパラメータを変化させたとき、系の安定状態が分岐して倍加する現象です。CFPの過剰熱を精密に測定することによって、分岐構造に似た現象が観測されていることが分かったのです。(図7)

(★図7を省略。原文をご覧ください★)

 元来、CFPの起る系は、開いた、非平衡状態にある、構成要素が非線形相互作用をしている系です。このような系は複雑系と呼ばれ、カオスや自己形成などのコンプレキシティ(複雑性)と総称される現象が起ることが知られています。上に述べた三つの法則性は、CFPが複雑性を示すことを実験データから明らかにしたと言えるでしょう。
 したがって、CFPでは、定量的再現性が存在しないことは当然ですが、場合によっては定性的再現性も存在しない、カオス状態になることもありえるのです。
 このような筋書きにしたがってCFPが起るとすると、「原子核物理学と固体物理学の境界領域における固体-核物理学と名づけられる学問領域を垣間見せてくれているのが常温核融合現象なのではないか」という期待が持てるのです。
 可能な応用に簡単に触れると、1)過剰熱のエネルギー源としての利用、2)核変換による有害放射性廃棄物の処理(無害化)、3)新しい有用核種の生成などは、最も容易に可能になるものでしょう。その際に必要な配慮は、確率は低いにしろ、核爆発に発展する可能性のある核反応であることを認識して、対応策を講じておくことです。いずれにせよ、常温核融合現象の科学が明らかになった段階で、応用についても考えるのが常道であることは、否定できない真理です。

 事実を正確に求め、その事実に基づいて論理を展開し、得られた結論に従って意思決定をするという科学的思考を身につけることによって、理性を与えられた人間の特権を生活に生かすことが、健全な地球社会を維持するために人類に課せられた義務なのだと思われます。また、それが125年前に理学振興の熱意を持って結集した若き理学士たちの思いを継承する道でもありましょう。[1]

■引用終了

以上