2016年7月19日火曜日

MFMPとBob Higginsさんによる安価な中性子線測定器の試み

MFMPがBob Higginsさんと共同作業で、安価な中性子線測定器を作ろうとしているようです。
ロッシ風のGlowStickという常温核融合実験装置で、放射線を検出したという報告が出ましたが、その後、中性子線も出ているのではないか・・・という実験があって、とうとう安価な中性子線測定器を作ることになったようです。

中性子線の測定器は高価で、専門的な機関以外にはなかなか保持していません(尤も、これまでは需要も限られていた)。今回の試みで、安価な(数万円以下?)中性子線測定器のキットが提供されるようになると良いですね。



Webサイトでは以下に情報がまとまっています。



MFMPは現状では以下のようなアナログな中性子線測定器を使っているようです。



そして、放射線検出が報じられた時の記事は以下でした。



以上

ナノ銀による放射線低減実験で過剰熱は測定できるか?

以下の記事にて、第53回アイソトープ・放射線研究発表会で岩崎信博士の研究発表があった事をお伝えしました。

4-5nm粒径ナノ銀粒子による土壌中セシウム放射線低減現象
http://amateur-lenr.blogspot.jp/2016/07/4-5nm.html

この研究について、板橋区の松崎いたる区議からペテンに等しいという発言がありました。


現状、この現象について分かっているのは放射線低減を記録した実験結果だけであって、機序の探求はこれからの課題だと思っています。
したがって、「熱や放射線量の増加が観測されるはず」というのも、ある仮説に基づいた推測に過ぎない筈です。この推測を元にして、放射線の低減という実験結果をペテンだと否定する論理は全く理解できません。

とは言え、常温核融合実験で良く使われる「過剰熱検出」が、ナノ銀による放射線低減実験(以降、ナノ銀実験)では使われていない背景は明らかにしておいた方が良いと思って、この記事を書いています。

さて、結論から言うと、ナノ銀実験の試料の規模では、熱発生があったとしても、たいへん小さく、現状の室内環境では測定できるレベルに達しないと思われます。逆に言うと、放射線測定はたいへん感度が高い測定方法であり、試料準備や測定方法等に間違いがなければ、測定精度を高められる方法なのだと思います。

以降、その評価(計算)を説明します。

想定するナノ銀実験は例えば ここ に示すものです。単純に言うと、U9容器に数g~数10g程度の汚染物質(土壌や汚染水乾燥物)を入れ、そこにナノ銀を担持させたコラーゲン溶液や骨炭を入れて放射線量の変化を見ています。

岩崎信博士は、発表によると、ナノ銀実験の説明として、放射性セシウム元素が他の元素に変換される核変換を有力な仮説と考えておられます。しかし、松崎いたる区議は、放射性セシウムの壊変が加速されるという仮説を念頭に議論しているようなので、ここでは放射性セシウムが通常よりも早く壊変したと仮定してみます。

放射線の測定値から見て、試料にはだいたい数10ベクレル程度の放射性セシウムがあったと思われます。

多めにみて、また、単純化して、100ベクレルのセシウム137があったと想定します。

1ベクレルのセシウム137は約1.4×10^9個の原子からなります。
( ^ はべき乗を表します)
100ベクレルだと、その100倍の1.4×10^11個の原子があることになります。

セシウム137の1個が壊変して安定した元素になるまでに、大雑把に1MeV程度のエネルギーが放出されるようです。このエネルギーが全て熱に変換されたとして(※)、1MeVは熱量では1.6×10^-13ジュールに相当します。

(※) 但し、実際には、ガンマ線は透過力が強くて系外に飛び出て行ってしまいますし、ベータ崩壊の場合にはエネルギーへの変換はもっと難しいらしいので、エネルギーの全量が熱に変換されるという仮定には無理があります。ここでは、見積もりの最大値を得るための架空の想定として全量が熱に変換されたとします。


ここで、100ベクレルのセシウム137が全て壊変して安定元素に変わり、その全てのエネルギーが熱に変換されたとします。

この時に発生する熱量は、
1.4×10^11(個)
× 1.6×10^-13 (ジュール)
= 0.022 (ジュール)
 となります。

0.022ジュールは約0.005カロリー相当です。
つまり、1グラムの水の温度を0.005度ほど上げるくらいの熱量です。

これだと周囲の環境温度の変化より遥かに小さいですから、今の実験環境での測定は不可能です。この実験では、放射線に比べて熱量の方がずっと測定が難しいのです。

上記の計算に間違いがありましたら、是非、コメント欄などでご指摘をいただければ幸いです。

松崎いたる区議がどのような計算に基づいて、過剰熱が出る筈だと主張しておられるのかは不明です。松崎いたる区議は過剰熱の証拠が出ないならペテンに等しいとまで断言されているので、この実験における全ての機序を説明できるのかもしれません。是非、その説明をお願いしたいものです。

以上

2016年7月11日月曜日

ICCF20のアブストラクト提出締切は7月15日

関係者の方は既にご存知でしょうが、ICCF20のアブストラクト提出締切が、6月30日から7月15日に延長されました。多くの発表が集まると期待したいです。


また、ホームページに載っている、おそらく協賛社のロゴが増えていました。TEETやTECHNOVAは常温核融合研究の昔からの支援者ですが、日産自動車が入っていたのが驚きです。たいへん嬉しい動きですね。


以上

4-5nm粒径ナノ銀粒子による土壌中セシウム放射線低減現象

第53回アイソトープ・放射線研究発表会にて、ナノ銀による放射線低減現象の発表がありました。
カテゴリと題名は以下のようになっています(発表に適したカテゴリが存在しないようで、畑違いの「動植物」に分類されています)。
東電福島第一原発事故関連 動植物(1)
2a-Ⅱ-12
4-5nm粒径ナノ銀粒子による土壌中セシウム放射線低減現象
-諸間接証拠に基づくメカニズムの検証-
岩崎 信(元東北大・院工)、阿部宣男(元東京都板橋区ホタル生態館)、綾部斗清(日大・生物資源学)
この研究発表会は以下で広報されています。


発表のプログラムは以下に公開されていて、上記の発表はP8に載っています。

http://www.jrias.or.jp/seminar/seminar/pdf/file1_53program20160627.pdf

今回の発表では、たいへん重要な事実が幾つか報告されましたが、詳細については省かせていただきます。私が特に重要だと思ったのは以下です。
  • 初期に採取された汚染土壌にナノ銀を添加して一ヶ月経過した試料の放射線量はほぼバックグラウンドレベルとなった。
  • 詳しく解析すると、Cs134とCs137の放射線減少率には微妙な差がある。
また、LENR(常温核融合)を仮説として提示したのは、もしかするとこの研究発表会では初めてのことかもしれません。論文が出てくるのが楽しみになってきました。

以上

ICCF19のProceedingsが公開されました

国際常温核融合学会第19回大会(ICCF19)のプロシーディングスがLENR-CARN.orgに公開されました。

JOURNAL OF CONDENSED MATTER NUCLEAR SCIENCE
Experiments and Methods in Cold Fusion
Proceedings of the ICCF 19 Conference, April 13–17, 2015, Padua, Italy VOLUME 19, June 2016

以下がURLです。

http://www.lenr-canr.org/acrobat/BiberianJPjcondensedr.pdf

しかし、この全体文書は332ページ、24MBもあります。
一つ一つの論文にアクセスしたい方は、以下のページから検索できます。

http://lenr-canr.org/wordpress/?page_id=1495

最近の投稿を見ると以下のような画面になってます。


ちなみに、ちょっと裏ワザ的ですが、以下のページにアクセスして、全部の論文のサマリを出して、ブラウザの検索機能で検索する使い方をする人も多いとのこと。これはなかなか便利です。

http://lenr-canr.org/DetailOnly.htm


以上

ナノ銀によるゴミ焼却灰の放射線低減実験(2)

2013年5月に以下のような記事を書き、ゴミ焼却灰に対してナノ銀を施すと、放射線が低減するのではないかという実験結果を紹介しました。

素人が知りたい常温核融合: ナノ銀によるゴミ焼却灰の放射線低減実験
http://amateur-lenr.blogspot.jp/2013/05/decontaminating-radioactive-ash-of.html

この実験に対して、以下のまとめのコメント欄で疑問があるとの意見がありました。このまとめで扱った室内での実験とは異なるので、まとめの趣旨に変更はありませんが、この疑問について考察してみました。

ナノ銀による放射線低減現象の検証実験では対照実験も行われていますよ - Togetterまとめ
http://togetter.com/li/980202


結論として以下と考えます。
  • ゴミ焼却灰実験での対照系の設計や測定方法には問題があり、この実験ではナノ銀と一緒に投入した溶液や骨炭の影響を除外できない。この実験だけでナノ銀による放射線低減があるとは言い難い。
但し、こういった実践的なフィールド実験で効果を検証する意義は大きいと思っており、効果を示すのに失敗したデータであっても公開する姿勢は非常に重要だと思います。
また、この実験には問題がありましたが、その後、条件を制御しやすい室内で行われた実験では対照系も測定方法も改善され、より精度の高い設計と実測がなされています。

この測定結果レポートは、松崎いたる区議に対する名誉毀損訴訟で裁判所に提出された原告側資料の中にあります。但し、この資料の公開は原告側の了解を得たものではないので、敢えて元のURLは示さず、この記事の末尾に実験レポートの画像を載せました。非公開が前提であり、プライバシー侵害のおそれのある裁判資料をそのまま公開する松崎いたる区議に姿勢には疑問を感じます。

測定結果レポートの冒頭には、以下のように記載されています。
立会者(測定方法指導) 岩崎 信(元東北大学教授)
しかし、岩崎博士本人に確認したところ、岩崎博士は現場で立ち会っていたが、実験目的設定や実験の実施要領に関して関与していなかったとのこと。また、この時点(2012年3月28日)では、ナノ銀の実験や課題についてほとんどご存知なかったとの事です。
したがって、この実験には、岩崎博士の持つ放射線計測の専門家としてのノウハウは活かされていませんでした。

ホタル飼育の繁忙期であった阿部博士には余りお話を伺えてませんが、この測定は制約の厳しい環境で行われたとのこと。フィールド実験の難しさがあったようです。

以下に問題点の一例を挙げます。

1)実験A(対照系)で放射線量が下がっていない

3.6リットルの水を下から注入していますが、以下のように施行30分後の方が放射線量が高くなっています。
施行前:4.82μSv、施工直後:4.38μSv、施行30分後:4.93μSv

本来、水も遮蔽効果を持つので、放射線量は下がると想定されるのですが、下がっていません。原因は不明ですが、下から注入した水が焼却灰に混ざっていなかったのかもしれません。この状況ですと、同等の条件での比較が難しくなると思います。

2)実験B(本実験系)で注入された遮蔽物がAと同等ではない

実験Bでは以下を注入しています。対照系との違いをできるだけ「ナノ銀だけ」に近づけるためには、Aに入れるものはナノ銀を担持しないコラーゲン溶液と、ナノ銀を担持しない骨炭であるのが望ましいのですが、そうなっていません。
ナノ純銀担持コラーゲン溶液 (10ppm) 3.0リットル
ナノ純銀担持骨炭 3.0kg
但し、ナノ銀担持コラーゲン溶液はほぼ水と同密度らしいので、同量の水を対照系で使う近似はあり得ると思います(遮蔽の強さは殆ど物質の密度で決まるため)。

しかし、Aの水の量とBのナノ銀担持コラーゲン溶液の量は異なっており、またBのナノ銀担持骨炭に相当するものがAには入っていません。

したがって、実験Aと実験Bの差を見ても、それが遮蔽物による差なのか、ナノ銀による差なのかの判別が非常に難しいのです。

以上

実験レポート(9ページ): 松崎いたる区議に対する名誉毀損訴訟で提出された証拠書類













2016年7月3日日曜日

ロシアのActinidesグループが微生物による核変換技術を発表

E-Cat Worldで取り上げられて知りました。2016年6月21日にロシアの「Actinides(アクチナイド)」というグループがジュネーブにあるSwiss Press Clubにて記者会見を行い、生物学的核変換(バイオケミカルな核変換と彼らは呼んでいます)の技術を開発したと発表しました。

発明者としては Viktor Kurashov 氏と Tamara Sakhno 氏の名前が挙がり、責任者として Vladislav Karabanov 氏の名前が挙がっています。

以下にこのグループのWebサイトが立ち上がっています。


以下が記者会見の動画です。約1時間半の長さで、ロシア語から英語への逐次通訳が入っています。



この会見の文字起こし(ロシア語と英語)が以下に公開されています(とても助かります)。

http://bt-isotopes.com/wp-content/uploads/2016/05/Translation-of-speaches-transmutation.pdf

これを見ると、90年代初めから研究に取り組んでいたようです。2015年8月に特許が公開され、権利を確保できたので、今回の発表となったようです。
Since early 90’s we have started to develop the technology of chemical elements transmutation. The first results we obtained dated 1998. The main work and the researches, hundreds of successful experiments was conducted in summer and autumn 2013. Our further efforts was targeted to patent this work, and for obvious reasons we haven’t published our results before the patent came out. The patent priority was received on 15 of may 2014, and the patent itself came out on 25 of august 2015.
この技術が本物であれば様々な用途が想定されますが、彼らとしては、貴重な元素の生成によるビジネスに主眼を置いています。以下の記述を見ると、猛毒で悪名高きポロニウムをロシアは毎年9グラムほど米国に売っているらしいのですが、彼らの技術を使えばグラム単位でポロニウムを生成できると言ってます。ビジネス戦略上は、グラム単価の高い元素の生成に走るのは論理的ですが、核産業や軍需産業を直撃する非常に危険なビジネスである点は気になります。
For example, Russian Federation sell 9 grams of polonium-210 a year to the United States. It seems like this is a most part of produced polonium from Russian nuclear reactors, or at least what we know from press. While we in half liter flask, in results of experiments, had polonium in grams, that means we had 30% of what Russian nuclear industry produces yearly on the table. We also obtain other isotopes of polonium -209, and 210. These are much more valuable and expensive isotopes, because they have much longer half-life period.
次の文では元素変換の具体的な事例が出てきます。数100グラムのウラン鉱石には300mgほどのウラニウム238が含まれているが、そこから200mgのアクチニウムを取り出せるそうです。
Now, for the understanding of the public, about the production output:
We obtain 200 mg of actinium from 100 grams of ore containing 300 mg of uranium-238.
That is, about 66% of weight of natural uranium (or natural thorium) have turned to other valuable elements.
会見の最後は以下のような言葉で結ばれています。スイスのofficial structuresにプロモーションしていきたいそうですが、ロシアでは幾つかの理由で難しいと書いてあって、なかなか意味深です。
In any case, at the first stage, the resulting products of this invention will be in demand by the market. We also hope to find partners for the development and the consumers of our products.
The technology will solve a lot of human and industrial problems in a few months.
In conclusion.
We hope to promote the Swiss official structures for the integration of the invention in Switzerland.
Unfortunately, in Russia for several reasons, which we do not want to touch, it is difficult.
We are also aware of the responsibility for ensuring that the technology was not included in unwanted hands.
All together it will be a very important contribution to world progress.
この中で言及されていた特許は以下からダウンロードできます。これも英語の抄訳が提供されています。



また、去年の10月〜12月に研究会?で発表した時の資料が3件公開されています。


この資料には以下のように方法が書いてあります。使っている細菌は、チオバチルス種という硫黄細菌の一種のようです。放射性物質の溶液にこの細菌を入れて、強い酸性を保ったまま28度〜32度の温度で300rpmの速度で撹拌する・・・といった手順のようで、色々とノウハウがあるにしても、それほど難しい処理ではないように見えます。この処理を9日〜20日間くらい続けると核変換が観測できるようです。
2.1. Materials and Methods
Raw materials containing radioactive elements were treated with water solution of Thiobacillus bacteria genus, Thiobacillus aquaesullis or Thiobacillus ferrooxidans species; or their mixture in any proportion. Bacteria of Thiobacillus genus (iron- and sulphur-oxidizing bacteria as well as thermophilic and others) contributed to redox processes of metals were used. Solution pH was controlled by sulphuric acid with a normality of 10N, during the process pH was maintained at 0,8-2,5. Temperature of the process was 28-32 degrees centigrade. Redox potential (Eh) of the solutions was 400-800mV. Stirring rate was 300 rpm. Solid to liquid phase ratio was 1:10 (100 g of
water per one litre of a solution). pH and Eh of a solution, chemical elements and isotopes concentration, as well as microorganisms’ vital activity were measured and traced every 24 hours (daily). Process duration was nine – twenty days. The following methods of water solution analysis were used: X-ray fluorescence method for elements’ content determination (apparatus types: CYP–02 «Renom FV»; S2 PICOFOX); atomic adsorption method; mass spectrometric method for isotope composition determination. 
実に興味深い実験結果が示されています(下表)。最初はウラン鉱石に含まれるウラニウム238や鉄、マンガン等が検出されていますが、1日たつごとに新しい放射性核種が検出されるようになっています。微生物による核変換で、新たな放射性物質が中間生成物としてこれほど明確に検出されたのは初めてのことかもしれません。
この技術が本物であれば、放射性物質の核変換が従来に比べて格段に簡単にできるようになるので、まさしく革新的な技術の一つになるでしょう。細菌の種類まで公開されているので、追試が出てきて確度が上がることを期待したいですね。

ちなみに、Vladislav Karabanov 氏にメールで問い合わせたのですが、残念ながらICCF20への出席予定は無いそうです。

以上