2015年5月17日日曜日

常温核融合を全否定する言説(1)

常温核融合について調べていると、常温核融合現象が観測される実験結果をたくさん目にするので、もはや「常温核融合があるのは当たり前」という感覚になってきます。しかし、世の中では殆ど常温核融合研究の実態が知られておらず、いまだに「そんな事が起こる筈がない」「否定された筈だ」といった言説を良く見かけます。

このような常温核融合を真っ向から否定する言説を取り上げて、私が間違っていると考える点を挙げてみることにしました。こういう反論を考えるのは、常温核融合に対する理解を深める効果があると思っています。

何回続くか分かりませんが、最初は「化学反応と核反応ではエネルギーレベルが違うので、化学反応が核反応を誘発することはありえない」という説を考えてみます。例えば、板橋区の松崎いたる区議の以下の発言などは典型的です。「化学反応で核反応が起こることはあり得ず、科学的にはまったく根拠がありません」と否定しています。

板橋区ホタル生態環境館の元職員が「ナノ銀で除染できる」と福島県大熊町に働きかけていたことを示す資料。化学反応で核反応が起こることはあり得ず、科学的にはまったく根拠がありません。 http://www.i-foe.org/h26wa29256/suitor/k18.pdf
Posted by 松崎 いたる on 2015年5月12日
まず、化学反応のエネルギーの大きさが、核反応のエネルギーの大きさと全く違うというのは事実です。
大雑把に言うと、化学反応では、一つの反応でeV(エレクトロンボルト)ぐらいの大きさのエネルギーが放出されます(反応によって大きさは異なりますが、オーダーとしてはこの程度です)。一方、核反応では、一つの反応で、MeV(メガエレクトロンボルト)ぐらいの大きさのエネルギーが放出されます(これもオーダーとしてこの程度という話です)。要するに、核反応の方が化学反応より百万倍くらい大きなエネルギーを発生するのです。

しかし、発生するエネルギーの大きさが全く違うからといって、「化学反応が核反応を誘発することはありえない」と主張できるでしょうか? 私の狭い知見の範囲では、この主張の証明を見たことがありません。これまで何度も追試されている常温核融合現象では、電気分解や数百℃の加熱など、いわゆる化学反応レベルのエネルギーをかけることによって、核反応としか思えない過剰熱や元素変換を検出しています。そもそも、「化学反応が核反応を誘発することはありえない」という主張は、根拠のない都市伝説のようなものだと思います。

さらに、実は、常温核融合を持ち出すまでもなく、この主張は否定されているようです。

以下の資料は、東工大で2015年3月15日に開催された「「中性子で元素を変えよう」 ~放射能を無くする原子核変換を目指して~」という一般向けの講座で配られた井頭正之先生の資料の一部です。

ANNRIという中性子核反応測定装置を用いて、長寿命な放射線核種であるキュリウム246の中性子捕獲断面積を計測した結果を示しています。中性子の持つエネルギーが4.31eVや15.31eVという所で、中性子捕獲断面積が非常に大きくなるピークが観測されています。私は初めて知ったのですが、ただの「エレクトロンボルト」オーダーのエネルギーを中性子が持っている時に、衝突する相手の246Cmとたいへん良く核反応を起こす事を示しています。

クーロン斥力が働かない中性子だと、実は、化学反応レベルのエネルギーの時がたいへん良く核反応を引き起こす、という訳です。常温核融合を持ち出すまでもなく、「化学反応レベルのエネルギーを持った粒子が核反応を引き起こしている」のです。

こう言うと、「いや、クーロン斥力が働く時の話をしていた」という反論があるかもしれません。でも、それならそういう主張をすべきであって、それにはまた別の反論があります。

以上

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