以下が要約部分です(赤字は引用者による)。いわゆる常温核融合反応のことを「トンネル核融合」と呼んでおられるようです。おそらく、「ホスト金属中でのクーロン障壁について」で書いた、金属中に原子核がある場合におこるトンネル効果を意図された用語だと思います。
要約: より安定的に従来に比べて熱を発生することができる反応体、加熱装置及び加熱方法を提供する。この反応物(26)が表面に形成されたナノサイズの金属ナノ粒子(金属ナノ突起)を含む水素貯蔵金属を含み、水素原子が反応に金属ナノ粒子に格納されている場合、そのように重水素ガス雰囲気の反応炉内に配置される(26)において、電子は、強く、周囲の金属原子と他の電子によって影響を受けた金属ナノ粒子は、のように重い電子が作用し、前記結果として、金属ナノ粒子中の水素原子の間の核間距離を収縮させることが可能となるトンネル核融合反応の発生の確率を高めるため、これにより、より安定的に従来に比べて熱を発生するようになっている。この特許で示された方式には幾つかの特徴があります。まだ余り読めていませんが、私が気付いた点を以下に挙げます。
特徴の1点目は、グロー放電を使った常温核融合反応炉であることです。これは[0021]に記載されています。
[0021] ここで本発明では、電極として機能する反応体26の表面に、ナノサイズでなる複数の金属ナノ粒子を形成することで、重水素ガス雰囲気中で巻回型反応体25及び反応体26によりグロー放電を発生させた際、金属ナノ粒子中に水素原子が吸蔵され、ナノサイズの金属ナノ粒子内の電子が周囲の金属原子や他の電子から強く影響を受けて重電子として作用し、その結果、金属ナノ粒子内での水素原子間の核間距離が縮み、反応炉2内において中性子を放出しながら熱を発生させる核融合反応を起こさせることができる。特徴の2点目は、「プラズマ処理」によって、電極の表面に金属ナノ粒子構造を増やしたり、金属表面の酸化皮膜を除去して反応性を上げる工夫です。これは[0022]に記載されています。
[0022] 因みに、この実施の形態においては、後述するプラズマ処理を行うことにより、反応体26を反応炉2内に設置した後に、当該反応体26の表面にナノサイズでなる複数の金属ナノ粒子を形成するが、本発明はこれに限らず、反応体26を反応炉2内に設置する前に、反応体26に対してスパッタ処理や、エッチング処理等を行い、当該反応体26の表面にナノサイズでなる複数の金属ナノ粒子を予め形成しておき、当該金属ナノ粒子が表面に形成されている反応体26を反応炉2内に設置するようにしてもよい。但し、この場合であっても、重水素ガス雰囲気中で巻回型反応体25及び反応体26により炉内にグロー放電によるプラズマが発生した際に、水素原子が金属ナノ粒子内に吸蔵し得るように、後述するプラズマ処理を行い、反応体26の表面の酸化被膜を除去し、表面の金属ナノ粒子を活性化した状態にする必要がある。特徴の3点目は、リチウム等の元素を添加することで反応を促進できるとしている点です。これは[0039]に記載されています。
[0039] なお、反応体26は、重電子水素原子間の核融合反応発生確率を増やすために、例えばアルカリ類や、アルカリ土類原子(例として水素原子構造を持つ、Li、Na、K、Ca等)を金属ナノ粒子の表面に添附してもよく、これにより金属ナノ粒子中での電子の受け渡し作用を大幅に増加させることができ、一段と核融合反応発生確率を上げることができる。本発明の発熱装置1では、このようにして核融合反応を安定的に起こさせ、核融合反応時に生成される大きなエネルギーによって、安定的に発熱し得る。特徴の4点目は、この反応によって中性子の発生を計測しており、かつ、放電電圧によって中性子発生量を制御しているとしている点です。これは、[0042][0043]に記載されています。
[0042] これとは別に、発熱反応処理を行うため、反応体26を反応炉2から取り出すことなく、上述したように電極対に1[kV]を印加してグロー放電を発生させ続け、反応炉2内を10^-6気圧程度とし、ガス供給手段3により反応炉2内に重水素ガスをガス圧10^-2気圧で供給した。これにより発熱装置1では、1~2分後に中性子測定手段19によって中性子が測定された。
[0043] 次いで一旦、グロー放電を中止し、反応炉2内に重水素ガスを補給した後、十分に電極対を冷却し、再び電極対に1[kV]の電圧を印加してグロー放電を発生させた。これにより中性子測定手段19によって、再び中性子を測定し始め、この後、中性子を数時間継続して測定した。ここで、中性子の測定結果を図3に示す。図3に示すように、この発熱装置1では、グロー放電を起こさせるために電極対に電圧を供給した後から急激に中性子が発生していることから、反応炉2内で中性子発生を伴う核融合反応が起こっていることが推測できた。また、このような中性子の発生数は、電極対の放電電圧によって制御でき、電圧の指数関数で発生中性子数が増加することが確認できた。なお、安定的な中性子の発生は、電圧の供給により、10^6個が得られた。発熱反応を200秒間継続させたときの反応体26の単位面積あたりの中性子発生量を計算したところ10^5個であった。
図3
以上に挙げた特徴のうち、中性子発生を制御できるとしている点は、常温核融合炉に新たな応用を切り拓く可能性がある非常に重要な特徴だと思います。今後の動向を気にしておく必要があるでしょう。
また、ちなみに、もちろん過剰熱検出の結果についてもデータが示されています(表1や表3)。
以上