2014年4月20日日曜日

Jed Rothwell氏の「常温核融合の文献と歴史からの教訓」

インターネット上の常温核融合論文ライブラリ lenr-canr.org を管理されているJed Rothwell氏が昨年に開催されたICCF-18で発表した時の資料の和訳が公開されました(PDF版をダウンロード可)。
英語版は、Lessons from cold fusion archives and from history から、
日本語版は、常温核融合の文献と歴史からの教訓 からダウンロードできます。

15ページの文献ですが、常温核融合について非常に興味深いエピソードが沢山つめ込まれています。私が興味を惹かれたのは、再現に失敗した例として挙げられたカミオカンデの実験例です。何が失敗の原因なのか知りたいと思っていたのですが、その答えが書いてありました。(興味のある方は上記の日本語版をお読みください)

この手の失敗は常温核融合の歴史の中で繰り返されてきたようです。初期の電気分解方式の常温核融合の研究には、少なくとも核物理と電気化学の知識が必要でした。でも、両方の知識を兼ね備えた科学者はおらず、片方について生半可な知識しかもたずに実験を行うと失敗します。常温核融合の研究には、複数の異なる分野の専門家の協力が不可欠なのです。

発表の模様は以下の動画で見ることができます。

最後に要約を引用します。

常温核融合の文献と歴史からの教訓

要約

常温核融合の研究分野はやや混沌とした状態である。実験結果は一貫性がない場合もあれば、まったく矛盾した結果の場合もある。いろいろな理論が提案されているが一般に受け入れられているものがない。しかし、歴史を顧みると、新発見の研究分野に起こるこういう混乱は問題ではなくて、むしろ健全な証拠だと言える。プラズマ核融合などの定着した分野は幅広い合意としっかりした理論的基礎があるにも関わらず、あまり進展がない。私たちは、混沌を受け入れ、喜ぶべきである。

混乱とした状況にもかかわらず、論文や報告には、常温核融合が本物であることの証拠が示されており、再現する方法も説明されている。

文献には失敗に終わった実験が数多く掲載されている。その失敗には二種類ある: 素人の単純ミスと勇敢な試みである。カミオカンデの地下観測装置で行った実験で はパラジウムを素手で持ち出したりして、多くの単純なミスを起こした。こんな間 違いを避けるためには、まず教科書を読むことと、LENR-CANR.org に収録された 過去の論文や報告を読むこと、電気化学者の助言を得ることである。勇敢な試みの 例としてスリニバサン(Srinivasan)の報告を挙げよう。スリニバサンはミルズが報 告したニッケルで発生する過剰熱をインドの BARC 国立核エネルギー研究所で再現 した。BARC で得た結果をもう一度 SRI で再現しようとして 6 か月苦労した挙句、 有意な結果を得られなかった。そのため、BARC で得られた前の結果も問い直すべ きだと判断した。これこそ本当の探究心の現われだ。こんな失敗のおかげで成功が 生まれるだろう。

最後に、研究には警戒すべきことがある。それは広く信じられている根拠のない仮定に捕まってしまうことだ。誰でもその仮定が当たり前のことだと思い込んでいるから、疑問に思わないわけだ。間違いだと気が付かない。最後の章で遺伝学の歴史からの例をあげる。我々は、常温核融合研究の進歩が、そのような仮定によって遅れないことを望む。

以上

2014年4月8日火曜日

岩村康弘博士の常温核融合研究が日経新聞に報じられる

日本経済新聞が、三菱重工業の岩村康弘博士の常温核融合研究を紹介する記事を載せました。マスメディアが常温核融合を報じるのは一体何年ぶりでしょうか。岩村博士の研究自体は常温核融合研究者の間では著名なものですが、こうやって記事になったのは画期的だと思います。


さて、記事の中に以下のように記載があるのは、MITで開催された常温核融合コロキウム2014の事でしょう。
3月下旬、米ボストンのマサチューセッツ工科大学の講義室。世界から集まった100人以上の研究者を前に、三菱重工・先進技術研究センターの岩村康弘インテリジェンスグループ長は「元素変換はマイクロ(100万分の1)グラム単位で確認できた」と報告した。多数の質問を受け、同社の実験を説明する理論の提案も数多く発表されたという。
この時の岩村博士の講演動画は以下で見られます(Cold Fusion Now!に感謝)。


「様々な手法で重水素の濃度を高めることで、新しい元素の収量がナノグラムからマイクログラムへ3桁増えた。測定精度も上がり、1平方センチメートル当たり最大数マイクログラムの元素変換を確認したとしている」と書かれています。近年、実験手法が改善されて効率が上がってきたようです。発表原稿には以下のような進化の図が示されています。


今回は、以下の2つの処理法を新たに追加されたようで、特に後者で顕著な効率の改善が見られたようです。



また、昨年、豊田中研の日置博士が追試論文を発表された事にも言及するページがありました。海外のウォッチャーから見ると、「三菱」と「トヨタ」という大企業が常温核融合に取り組んでいるのは、タイヘンな脅威に映るようです。

しかし、記事の最後に以下のように指摘されているように、企業として大きな投資をしてきた訳ではなく、岩村博士の情熱によって辛うじて研究を継続してきたのが実情ではないかと思います。尤も、継続して来ただけでも偉大な業績ではあるのですが。
3年前の東日本大震災。放射性物質を拡散する東京電力福島第1原子力発電所の光景を前に、ある三菱重工業関係者は「元素変換をもっと大規模に研究していれば」と叫んだ。三菱重工は約20年、元素変換を研究してきたとはいえ、予算も人員も「細々と何とか続けてきた」というのが実情だ。
世界で常温核融合が注目を集めるようになった現在、この記事にあるように放射性廃棄物の無害化に向かって研究を加速していただきたいと願っています。

以上